「……綿流し……?」
「ここ……雛見沢で年に一度開かれるお祭りなのです」
「……お祭り……ねぇ……」
綿流し……か。変わった名前の祭りだな。
まぁどっちにしても認識されない俺にとっちゃ関係ないか……。
「……で、古手さんよ」
「何ですか?」
「……誰だあれ」
さっきからどうしても気になって仕方がない。
俺が古手さんを見つけた時、ぴったりくっついていたくせに今は木の陰でビクビクしてる。
しかも巫女の格好しているが……。
……というか……。
「名前は羽入といいます。……そう……見えるのね」
「ふーん。羽入ね。おーい羽入ー」
必要最低限の情報を手に入れた俺は、名前を呼び、羽入に近づく。
俺が近づくと……何故か離れる。
……何でだ……?
「あ……あぅあぅ……」
「あうあう言ってないで、こっち来いよ。危害を加えるつもりなんてないしさ」
「り……梨花ぁ……」
「…………どうしたって言うのよ……?」
……どうにも俺はこの子に嫌われているようだな……。
近づくことさえ許されない。……いや、許してくれない。
何をしたのか覚えてないからどうとも言えないが……困ったなぁ……。
「おーい。何で逃げるんだよー?」
「あぅあぅあぅ……」
「……………………」
えーと……俺と羽入は……初対面だよな?
初対面に対して少し慣れなれしかったか……?
「あぁっと、悪い悪い。慣れなれしかったか?」
「圭一」
「……何?」
「少し……向こうへ行っていてもらえますか? ちょっと……羽入から話を聞いてみます」
「……なるほど、そりゃ得策だ。俺が行っても逃げるだけだし」
「この辺まで来ればいいか……」
先ほど、羽入を見つけた所から……そうだな、大体10mくらいだろうか。
少しばかり離れて、建物の影に隠れて古手さんの返事を待った。
……しかし……俺ってそんなに嫌われるような感じ……雰囲気なのだろうか……。
少しショックである。
「……そういえば……羽入は俺の事を認識できるのだろうか……?」
俺が近づけば羽入は逃げたし……。
まぁ、嫌われているのは一時置いといて、あきらかに……そう、『怯えて』いた。
何故俺に怯える?
俺ってそんなに怖いか?
……………………。
……怖いんだろうな。
神社の境内ではセミが鳴き、そして祭りの準備をする音で溢れ返っている。
考え事をするには少し不適切な場所である。
「あー、くそ。トントンと五月蝿いな。お祭りも結構だが、神社の人の迷惑を考えているのか?」
「それは大丈夫ですよ」
「うおおおっ!?」
「綿流しのお祭りはこの村ではとても大切なお祭りですから。迷惑だなんて考えてないと思いますよ」
「そ……そう」
いかん、気配をまったく感じなかったのは俺が考え事をしていたからか?
いつの間に後ろへ回ったんだ?
「そうだ、どうだったよ。羽入は」
「…………圭一。前にも言いましたが、私は干渉する事が出来ません。だから……」
「……分かった分かった。まぁ、いずれ分かるだろう」
嫌われたって構わないさ。
嫌われちまったのなら、また仲良くなれるように努力するだけだ。
…………ん?
「また」?
……初対面……だよな……。
…………?
えーと…………居た。
「あぅあぅあぅ……」
「どうしてこっちに来ないんだ?」
「あぅあぅ…………」
……やはり駄目か。
まいったなぁ。認識できる人を見つけたと思ったのに。
これじゃあな……。
「……圭一。とりあえず……何もしないでください。羽入に対しては」
「……………………」
現実は厳しい。
今、思い知った。
「なぁ古手さん」
「何ですか?」
「色々聞きたい事があるんだが」
「……答えられる範囲で答えてあげます」
答えられる範囲……か。
干渉が許されない……と言っていたが、程度によるんだろうか。
今、こうして話をしているだけでも充分干渉に値すると思うのだが。
「ありがとよ。……で、聞きたいことだが、3つある」
「1つ目は?」
「あの……羽入について。細かく分類すれば3つなんかじゃ収まらないが……。とりあえず聞いておきたいのは、羽入が普通の人間なのか、という点」
おいおい、何で目を尖らせる。
何か逆鱗に触れるような事を言ったか、俺。
「それは……羽入に角が生えているから……?」
「……角……? ……あぁ、あれ角か! 変わったカチュウシャだなとは思ったんだが」
「…………じゃあ何でそう思ったんですか?」
「さっき古手さん、『見えるのね』って言っただろ。普通の人間なら見えて当然だろ」
「……なるほど……。……残念ですけど、答えられません」
「……やっぱり?」
ふーむ……。やっぱり駄目か。
羽入の存在については重度の干渉に値するという事か。
いや……俺に「知識」を与える事が制限となっているのかもしれないな。
今までのいきさつから考えても……不自然ではない。
……となると、名前はセーフなようだな。
古手さんは自ら名乗り、俺の名前を教えてくれた。
……これはまだ「軽度」の干渉という扱いになるわけか。
……そうだ……。
綿流し祭……。
俺が求めていたものが手に入る。
……これも一応「知識」ではあるが、直接的な言い方ではないからセーフとなる。
アウトとなるのは「求めている物」の具体的な表現……。
「綿流しの祭りで求めている物が手に入る」
この言い方はセーフ。
「綿流しの祭りで○○が手に入る」
こんな言い方は駄目、って事か。
「2つ目は何ですか?」
「おっと、そうだったな。2つ目はここについて。『雛見沢』という名前しかしらないからさ。
答えられる範囲でいいから教えてくれ」
「……名前は雛見沢村。圭一が求めている物を封じた場所。
ここは1年前に大きな事件が起きた。だけど、その事件は収まった。村人達の手で制圧した。
あとは……年に一度、綿流しのお祭りが開催される」
「……なるほど。1つ……新たな情報が手に入った。礼を言うぜ」
1年前に大きな事件が起きた。
うぅむ、「起こった」や「起こされた」とかだったら自然なものかそれとも人為的なものなのかが分かるのだが……。
1年前……一体ここで何があったんだ……?
「……最後の質問は?」
「…………まぁ、言ったところで答えちゃくれないだろうが……」
一時の間を置き、再び口を開く。
「俺はこれから何をすればいい?」
「……………………」
どうもこいつは干渉とやらに引っかかりそうだが……まぁ、聞いてみる価値はあるだろう。
教えてくれるのならそれは大きな収穫。
教えてくれなくとも干渉の「範囲」としてこの質問は重度なのか軽度なのかが分かる。
デメリットは無い。
「…………後悔しない……?」
「……何だ、教えてくれるのか?」
「…………後悔しない……?」
「………………ああ、しない」
「…………そう」
…………警告……。
どうにも干渉の範囲は2つに1つじゃないようだ。
制限がかかっているのは今分かっている時点で2つ。
干渉のレベルが「重度」なもの。
そして……条件付の干渉。
この場合は警告だ。
この警告を無視するのならば干渉してもよい……。
はは、誰がこんなルールを作ったのかは知らないが……やってくれるじゃねぇか。
面白い。受けて立とうじゃないかよ。
後悔? そんなもん知ったことか。
後悔しようにもこんな状態じゃしようがないだろう。
この状況を打破するには行動するしかないんだ。
そのヒントをくれると言っているんだぜ? 何を後悔する必要がある!?
俺は……後ろを向くことはなれてないんだよな。
前だけ向いてひたすら突き進む!!
それが……今の俺に出来る最善手だ!!
「教えてくれ。俺は何をすればいいんだ」
「……楽しみなさい」
「…………え……?」
「楽しみなさい。綿流しのお祭りを。答えは……必ずあなたに降りかかる」
「………………」
……へっ……。
いちいち人を不安にさせるような言い方だぜ……。
「降りかかる」……か。
……だから後悔ね。
……まぁ、俺は諦めが悪いようだし。
鬼が出ようが蛇が出ようが……進むしかないのなら俺は進む。
茨の道? 上等だぜ。
バラを全てへし折って突き進んでやる。
残された道は一つしかないんだ。
後悔しないって……約束しちまったからな。
「……最後にもう1つだけいいか?」
「……何ですか?」
「どうやって祭りを楽しめばいいんだ?」
俺の問い。
どうやって楽しめばいいのかという、普通の奴なら馬鹿馬鹿しいような質問だ。
……今の俺の目はマジなんだろうな。
さて、そんな俺の問いに古手さんがどうしたかと言うと。
「…………………………自分で考えてください」
そっぽを向いてそう言った。
「あ!! 逃げた!!」
「自分で考えてください」
「分からないから聞いてるんだよ」
「干渉ですので無理です」
「ぐ…………っ!!」
完全に逃げられた……。
仕掛けた罠が甘かったと言うところか。
…………む。
今何かが脳裏によぎった。
……思い出さなくてもいいか。
何故か思い出したくない。何故なのかは知らん。とにかく思い出したくないのだ。
何だろう……痛々しい記憶のような気がしてならんのだ……。
「さーて。ちょっと考え事してくる」
「……どうぞ、ご自由に」
頭を冷やして1から整理するか。
一度に大量の情報が頭の中に入ってきても混乱するだけだ。
1つ1つ引き出しに入れて整理しよう。
「…………まず考えないといけないのは…………」
あぁ、これしかないな。
「どうやって祭りを楽しむかだな」
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