第三の年         









 …昭和56年……か。
 …気がついたら俺……ここに居たけど……。

「…古手さん。沙都子と…悟史はどうなったんだ……?」
「……今は叔父、叔母夫婦と暮らしているわ。……去年あなたが彼らと生活した家でね」
「…………両親の転落は……どうなったんだ…………?」

「…詳しくは分からないけど…どうやら沙都子が悲鳴をあげて、事件が発覚したそうよ。一番に駆けつけた悟史は、『震える沙都子だけが居て、僕達の両親も圭一も居なくなっていた』といっていたわ」
「………………」






「……健闘を祈るわ」
「…健闘…って言うのかは微妙なところだけどな…」

 ……昭和56年……。

 …今年は…何が起こるっていうんだ……?
 ……古手さんは「現場に立ち会え」って言ってたけど…何が起こるのかを大体把握しておかないとこちらも手のうちようが無いぞ。

「………………」
「…考えているのね。…今年は何が起こるのか……って」
「……まあな。何とかして被害者を見つけださないと……」

 古手さんは「今年からは人工によるもの」だと言った。
 人工によるもので惨劇って言ったら……殺人しかない。今までの事を考えても、この重なった「偶然」を利用して殺人をしようとしている奴が居ないとも言えない。
 …ならば…必ずそこには「加害者」と「被害者」が存在する……!!

 加害者を止め、被害者を守る。
 …………それが俺の使命なんだ……!!

「…じゃあね。私は……これで舞台を降りるわ」
「……………………」

「…………?」
「……………………」
「……何…? 私がどうかしたの?」
「…………いや。何でもない……」

「…………」


 …なるほど…ね。
 「舞台を降りる」……か。
 彼女の言ってきた事は信用できるし、何より今まで警告を受けて、それを守って損をした事はない。
 ……なら……この言葉は本当の意味で舞台を降りるって言っているんだ。

 今まで俺にヒントを与え、そして……去年はペンダントを渡してくれた。
 今までは舞台の上で共に演じていた役を突然降りようとした。

 …………って事は…………。

「……今年は……古手さんの両親だな……」


 …彼女は全てを知っている。
 これから何が起こるのか、または起こる可能性が高いのか。
 その可能性はどこまで100%に近いのか、否か……。
 ……それらを知っているんだ。

 …そして…この連続で起こる事件は限りなく100%の確率で起こるって事だ。
 ……100%のほんの手前……。
 9が限りなく続いていくような確立でおこるんだ。

 …そして…今までと違い今度は舞台を降りた……。

 ……限りなく100%で起こる殺人で……自分の両親が殺されてしまうから……。

 ………………そうなんだろ? …古手さん…。

「…………」

 黙ってこの場を離れていく古手さんの表情は…どこか、重苦しかった……。

「…まかせてくれ…。必ず防いでみせるから……」

 …何故だろう。
 ……古手さんの両親とはいえ、彼らは俺にとって何の縁も無い人達だ。
 それなのに……俺は…命をかけて守ろうとする……。

 ……使命うんぬんの話じゃない。
 ……54年…おやっさんの時もそうだった…。
 …どうして…突然親しみがわいてしまう人が…何人も居るんだろうな……。

 ……この……雛見沢には……。

「……守ってやるさ……。どんな事が起きようとな……」
 天に手をかざし、握りこぶしを作って俺自身に誓う。
 今年は何も起こさせない。

 …惨劇だぁ? 殺人だぁ?
 そんなもん知った事か!!
 それが人工的であるのならば……必ず食い止められる……!!
 …古手さんはもうあきらめている。「食い止めろとまでは言わない」と言ったのがその証拠だ。
 ……だが……俺は絶対にあきらめない!!
 「見届けろ」という事はまだ事は何も起こっちゃいない!!
 ……まだ間に合うんだ。
 既定事項だって覆せる。……それを証明してやるぜ……!!

 握りこぶしと同じように、空を見上げようと首をあげる。
 ……すると……。

「…っつ……!!」

 …首に痛みがはしった。
 何だこれ……? 首を一周するような痛みが……。

 何事かと思い、さすってみる。
 ……みみず腫れができている……。

 …ペンダントで時間跳躍をしたから…こんな事になってしまったのだろうか……。



 ピピッ

「…………ん……?」

 まだ痛みを覚える首を撫でていると、聞きなれない音がした。
 …何の音だ…? 
 ……確かに……今何か……。

 …俺の…ポケットから聞こえた……ような……。


 何の音かと俺はポケットに手を突っ込んでさぐってみる。
 コツンと手に何かがあたった。

「……これは……大石さんからもらったポケベルだ!!」

 …そういえば…去年もらったんだった。
 すっかり忘れてたけど……。

 俺はポケベルの画面を確認する。
 大石さんが意味もなく俺にメッセージを送るとは思えないからな。

「…コチラニデンワシテクダサイ…。バンゴウハ…」

 内容は電話番号を指定しての、連絡をよこせとのものだった。
 確かにポケベルじゃ会話をするにはちょっと不便だ。
 …十円玉あったかな……。

 電話をするには誰かの家で電話を借りるか公衆電話しかない。
 古手さんはあんな事言ったからには協力してくれないだろうし、前者は却下だ。
 ……となると後者だが……。

 …十円玉が無い…。
 ……くぅ、何てこった……。

 …俺は十円すら持っていないのか……!!

 泣きたくなってきた。いや、むしろ泣いてやろうか。

「…カネガアリマセン…っと……。…送信……」

 …我ながら何て情けないメッセージを送っているんだろう……。
 「金がありません」って……。

 ……はぁー……。

 己の現状にかなり憂鬱になっていると、

 ピピッ

 再びポケベルに着信があった。
 どれ、大石さんはあんなメッセージを送った俺をどう罵倒するのかと嫌々画面を見てみると……。

「マエバラサン イルンデスネ」
 
 ……との事だった。
 一体何を言っているのかよく分からない。
 再度、ポケベルをいじってメッセージを作成する。

「ドウイウイミデスカ」

 ……っと。送信。
 しばらくするとまた着信があった。

「クワシクハ アッテカラハナシマス イマドコニイマスカ」

 ……。まぁその方が早いな。
 …つーか、最初からそうすればよかったんじゃないか?
 「ここに来てください」ってメッセージを送れば。

「…………って…あー、くそ……」
 頭を掻きながら、声を漏らした。
 ……今更気付いた。
 ………俺は時間跳躍をしてるんだ。俺にとっては一瞬でも大石さんや他の人には一年だ。
 「ここに来てくれ」とメッセージを送っても待ちぼうけだったんだろう。
 結局俺は指定場所に来る事はなく、電話をしろ、と……。

 ……いや、メッセージに反応があったら何でもよかったんだろう。
 俺にとっての空白の一年の間はどんなメッセージも届かなかっただろうからな。

 …ようするに…俺は一年間行方不明になっていたわけだ。
 ……それこそ、神隠しにあったみたいにパッと消えたんだからな……。

 さて、考えるのもほどほどにしないとな。
 さっさとメッセージを返さないと。

「ヒナミザワ フルデジンジャデス ……こんなもんか」

 ポケベルも便利っちゃ便利だな。
 離れたところに居る人とどこでも連絡できるんだからな。
 …っと、そうしているうちにメッセージが返ってきた。…どれどれ…。

「イマカラソチラニムカイマス」

 ……か。
 …じゃあ待ってるとするか……。

 今回は大石さんと協力した方がいいに決まってる。
 …………彼と協力して犯罪に挑むのは…………久しぶりだな。

 あの時は赤坂さんも居たっけ。
 ……赤坂さん……かぁ。
 今頃どうしているだろう。…確か…出産を控えて奥さんが入院しているんだったよな。
 無事……赤ちゃんは生まれただろうか。
 …一体どんな名前をつけたんだろう。

 …………赤坂さんに会ってみたい。

 …彼も警察の人だし、今年は無理だとしても……来年は……。

「………………」

 考えていて馬鹿馬鹿しくなってきた。
 彼は東京に住んでいるのだし、ここまで来るだけでもかなり時間がかかる。
 旅費だって自腹になるだろうし、何より今は家庭を持っているんだ。

 こっちはこっちで何とかしよう。
 ……赤坂さんには……どうしてもって時だけ……駄目もとで連絡を入れるくらいに考えていた方がいい。
 彼は…まだ巻き込むわけにはいかないんだ。

 それに…大石さんが味方なだけでも充分だ。
 彼は頼りになるし、部下からの信頼も厚いようだしな。赤坂さんも大石さんにまかされていたわけだし……。

 警察の人はどんな人でも柔道や剣道、その他、犯人との戦闘を考慮して様々な格闘術を会得しているのが常識だ。
 大石さんは柔道を会得している。
 …俺は何が出来るわけでもないが、眼を変化させ、肉体的な能力を上げてバットを振り回すだけでも充分な威力になるはずだ。
 赤坂さんは何を習っているのだろう。
 …あの人はまだ若いし、成長も半端無いだろうな。

 あれから三年が経っている。
 …………もう新米刑事でもない。さぞ、活躍されている事だろうな。
 …できるなら…また、大石さん、赤坂さん、俺で……組みたいぜ。

「前原さーーん」
 
 噂をすれば何とやら。…そんなに経たずに大石さんは階段を上ってきた。連絡を取った時既に雛見沢に居たようだ。

「大石さん。久しぶりですね」
「えぇまったくです。…それより…北条家について行ったんですってぇ? …ついてなかったですねぇ」
「……んー、ついてなかったかは微妙ですけど……」

 俺には選択肢が初めから一つしかなかったわけだしな。
 それは決して俺がしいたレールではないけれど……それをしいたのが古手さんなら話は別だからな。 
 彼女のしくレールならどこまでも進んでやるさ。

「……さて。前原さん、ここ一年連絡がとれませんでしたけど……一体何があったんです?」
「…えぇ。ちょっと……色々ありましてね……」

 ……どんな嘘を言ってもあまり意味がないだろう。
 真実を言うべきか…。……それとも……。

「…まぁ詳しい事情は聞かない事にしましょう。あらかた、崖から落ちてどこに居るのかも分からないまま彷徨ったのでしょうから……」

 …俺が崖から落ちた…?
 ……何の話だ?

「……とにかく、情報交換といきましょう。前原さん。あなた、一昨年起こったおやっさんの死…覚えてますよね?」
「…………ええ」
「そして、去年。北条家の二名、そしてあなたが転落した事……」
「………………」

「雛見沢に居なかったあなたと、雛見沢で調査をしていた私と……。違うのは何か?」
「……転落の現場に居たか、居ないか……」
「…正解です。あなたには、あそこで何があったのかを話してほしいんです。…何せ、北条沙都子さんはだんまり、悟史君は知らないの一点張りですからねぇ」
「………………」
「その代わり、私はあなたに捜査の結果をお話します。…まぁ、簡単に言えば答え合わせをしてほしいんですよ。私達の捜査の結果と、あなたの見た光景。……比べてみて、どうか……と。話すのが嫌なら、どこまで真実に近づいているのかを教えてください。何パーセント単位で結構です。……正解なら100%。不正解なら0パーセントでお願いします」
「……分かりました」

 ……なるほど……。
 …突然消えたから俺は一緒に転落したものだと……そうなっているのか。
 そして俺は現れた……。

 …………現場の状況を知っていて、かつ話す事が出来るのは俺一人だと…………。

「……死人に口はありませんからねぇ……」
「…それ、間違ってますよ。口はあるけど、しゃべれないだけです」
「……前原さんも冗談を言うようになったんですね」
「俺はいつだってフレンドリーに、周りを燃え上がらせるのをモットーにしているんですけどね」
「…本題に移ります。……まず、昭和54年の事件と昭和55年の事件。……これに関連性があるのは気付きましたか?」
「……関連性?」
「綿流しのお祭り…知っていますよね。この事件……二つともその日に起こっているんです」

 ……そういえばそうだな。
 …………これが古手さんの言っていた……「偶然」って事になるな…………。
 「ある意味必然」というのは、この二つの事件が、今年の事件を古手さんが必ず起こると確信しているように、必ず起こるとわかっていたからなのだろう。

「そして、殺されたのもダム工事現場監督であるおやっさんと、北条家の者です」
「…二人とも…ダム建設では雛見沢から見れば邪魔だった存在ですね」
「ご察しがよくて助かりますよ。…………この事件ね、……オヤシロ様の祟りなんじゃないかって、困った噂が流れはじめているんです」
「まったくもって困った噂ですね」
「ですよねぇ。……ですが…村人は思っています。……また今年も起こるんじゃないかって……ね」

「………………」

「毎年綿流しの日に村の仇敵だった者が殺されていく。…これがオヤシロ様の祟りと称した殺人の口実だとしたら……」
「………………」
「……やはり……園崎家にいっちゃうんですよねぇ」
「……………!」

 ……園崎家……。
 …雛見沢や興宮を牛耳っているっていう……あれか。
 
「……そして本題。まず、去年の事件ですが、可能性が二つあります」
「……二つですか」
「ええ。一つ目は、あなた達以外の、第三者によって転落による殺人が行われた場合。…二つ目は……」
「…………」
「…北条沙都子さんが両親を突き落とした…」
「………なるほど……」

 ………………。
 ……マズイな……。
 …このままじゃ…沙都子が……。

「……正解率を言え、と言いましたよね」
「…えぇどうぞ」
「………99%です」
「…ほぅ?」

 ……俺をはめようとしたようだが…そうはいかないぜ大石さん…。
 もし俺があんたの立場なら……こう考える。

 正解率を答えた時点で前原圭一は事件の真実を知っている。
 そして、その真実が第三者によるものなら……家の無い俺を養ってくれている北条家の両親を突き落とした犯人を見つけてほしいと警察である大石さんに言うであろうと。
 だが……後者……。
 ……北条沙都子が突き落とした、という場合。
 俺は必ず49%以下の確率で答えるだろう……と。

 前原圭一は北条沙都子と仲がよかった。
 ならばかばうのは当然……。
 そうすれば、少なからず後者の可能性を否定しようと50%以上の数字にはせず、低い確率だと言う。
 0%にしないのは第三者の可能性を匂わせておかないとかばうのも難しくなるから……。

 それで容疑の的を沙都子だけに絞り、あとは証拠を探すだけ……。
 ……大方そんなところだろう。

 ……だが…99パーセントなら、俺は前者の可能性をアピールしても普通の人なら不審がらない。
 …大石さんが相手だとそうとも限らないが、少なくとも高確率で大石さんの捜査結果が正解だと言っておいた方が都合がいいのは確かだ。


 …しっかしこの人……。…沙都子、悟史が何も話さない時点で沙都子を疑ってかかっているくせに……。
 ……まったく、敵にまわしたらこれほど嫌な人も居ないぜ。

「何故1%間違っていると?」
「選択肢が二つあったからですよ。やったのは沙都子じゃありませんからね。その点が間違っているために99%です」
「……………………」
「……………………」

「…なるほど。参考になりました」
「………………」
「では…前原さんにお尋ねします」
「……何ですか?」
「…あなた…嘘をついていないと証明できますか?」

 …聞き方が露骨になってきたな…。
 ……いいでしょう。…口先で俺に勝てると思ったら大間違いだという事を……教えてあげますよ……!!

「…俺が嘘をつく事にメリットがありません。さっきも言ったように第三者がやりましたから、大石さんにはそいつを早く捕まえてほしいんですよ」
「……メリットならありますよ。沙都子さんが犯人では無いと、あの現場に居たあなたが証言する事で沙都子さんは白になりますからね」

 ……ちぃ……。
 …やっぱ敵には回したくないぜこの人…!! 

「証拠もありますよ。…このペンダントです」
「……んん……? 何ですかそのペンダントは」
 
 古手さんに渡されたペンダント。
 ……まさかこんな形で役に立つとは……!

「真っ二つに割れているようですが……」

 ……そう。真っ二つに割れたって事は…普通ならば中心部に圧力をかけられたって事になる。
 今回はまったく違う形で割れたわけだが、そいつを利用させてもらうぜ……!
「これは古手さんから出発前にお守りとしてもらったんです。まさか本当に俺の命を救ってくれるとは思いませんでしたけどね」
「………………」

「よく考えてください。まず、俺も沙都子達の両親も同じ崖から落ちたんです。何故子供の俺が助かって、大人の二人が助からないのか……」
「…確かにそれは変ですねぇ」
「ペンダントが木に引っかかったんですよ。そのおかげで助かったんです」
「……ですがそれではあなた、窒息して死んでしまうのでは?」
「…………それです。今、俺がこうして生きているのが最大の、沙都子が犯人ではない証拠なんです」
「…………?」

「いいですか? 沙都子と俺の年齢の差は明らかだ。両親だってそうです。沙都子が突き落とすなら後ろからという事になります」
「……そうですね」
「ところが、だ。俺が突き落とされたのなら木に引っかかった時、喉に圧力がかかるはずなんです。突き落とされた足場に背を向けて落ちている事になるんですからね」
「………………」
「喉に、あの高さから落ちた時にかかる体重がかかれば間違いなく即死。だけど、俺は生きています。…………何故なら、前から突き落とされたからですよ」
「……なるほど。前から突き落とされ、突き落とされた足場に対して正面を向いているなら、木の存在を確認する事が出来るため、すぐに喉を守るために手の平でガードできる……」
「そうでもしない限り、俺はここに居ません。そして、もし沙都子に押されて前から落ちたのなら、年齢差のある沙都子が視界に入っていて、かつ正面で向き合っていたという事になります。いくら俺でも、突き落とされそうになれば抵抗しますし、沙都子に力では負けません。…………どうですか? これは証拠にはならないですか?」
「…ふぅーむ…」
「俺と両親を突き落とし、残りは沙都子だけになったが、その沙都子が悲鳴をあげ、やむなく殺人を中止せざるおえなくなった……。…俺はこう考えています。…こうはなりませんか?」

「……なるほど…。…なりますね。…どうやら私の考えが甘かったみたいです」
「ちなみに助かったのは、ペンダントが割れたから。ちょうど木に引っかかった部分がこの、ペンダントのガラス細工の部分だったんです。激流に飲み込まれましたけど、落ちた高さが違うために、水面はクッションとなって、しばらく流されたけどどうにか這い上がったというわけです」
「…なるほど…。…………おめでとうございます、前原さん。これで……北条沙都子さんは完全に白です」

「…………」
「あなたを敵に回さずに済んでよかったです。…では、一応ケンカ腰は解除するとしまして、同盟の方はそのままでよろしいでしょうか?」
「……もちろんですよ」
「…よかったよかった。……また一から調べなおしてみるとしましょう」

 ……よし。
 これでどうにか首の皮一枚繋がったな……。
 …感謝してくれよ、沙都子。
 大石さんを相手にするのはほんと、疲れる……。

「…前原さん。オヤシロ様の祟りですが……今年も起きると思いますか?」
「……ええ。起きますよ。……間違いなくね」
「…やはりそう思いますか…」
「違いますよ」

「……?」

「必ず起きます。……だから、それを止めるんじゃないですか!」

「………」

「同盟を組んでいる以上、何と言われようが俺はあなたについていきます。…そして…今年の惨劇を止めてみせる……!!」
「…失礼ですが…何故必ず起きると…」
「…………古手さんから聞いたんですよ。彼女の予言……的中率99%ですからね……」
「…古手梨花さんですか…。……しかし前原さん、また99%ですか。…こりゃまいりましたねぇ」
「古手さんは今年もオヤシロ様の祟りは起こると言っていたからですよ」
「……それがどうしたっていうんです?」
「…俺達が起こさせないから99%なんです。今年、来年! 頑張りましょう!! 大石さん!!」
「…………えぇ……。そうですねぇ……」

 言い切った。
 俺、言い切ったぞ。

 もう引き返せねぇ。いや、もともと引き返す気なんてさらさらないが……。

 ……もう、必ず事件を起こさせないという覚悟はできた。
 今年は…何も起こさせやしない……!!

「…前原さん。とりあえず…綿流しの日までに色々と作戦を立てましょう」
「……そうですね。被害者はもう分かっている事ですし……」
「……初耳ですよ……」
「話してませんでしたっけ?」
「いいえぇ。全然」
「す…すみません……。…えぇっと、今回の被害者は……おそらく古手家の頭首とその奥さんです」
「……古手家が……?」
「…これも…古手さんから……」

 …嘘っぱちだが、100%嘘だというわけでもない。
 ……それに、古手さんのしぐさや表情を見る限りでは……俺の推理はあたっているはず……!!
 
「…前原さん。嘘ついちゃいけませんねぇ」
「……え…」
「99%信頼できるんでしょう? その1%も、今回に限り特例です。梨花さんが言った事なら間違いないというのに『おそらく』と使っていますよねぇ」
「……あ」
「んっふっふっふ。まだまだ爪が甘いですよ前原さん」
「……ははは……」

 ……うーん……。
 …やっぱこの人敵に回したくないな……。

「大石さん」

 そう言って手のひらを向ける。
 ……握手だ。

「えぇ。これからもよろしくお願いしますよぅ?」

 大石さんも手を差し出し、お互いに握る。
 ……これで完全に俺達は仲間ってわけだ!

「分かってます。…ていうか、願ったり叶ったりですよ。敵対関係にならなくて済むだけじゃなく、味方として一緒に動いてくれるんですから」
「……では…前原さん。今後、私とあなた……意見が食い違う事があるかもしれません。その時はケンカ腰になってしまう時もあるでしょう」
「…そうですね」

 俺としては二度とそんな事はごめんだが。
 …まぁ、どうしてもそうなる時はくるだろうな。

「そんな時は…私があなたをフォローしますよ。表向きはケンカ腰…裏では私が前原さんが有利になるよう事を進めるとしましょう」
「……え? そんな事していいんですか……?」
「ええ。昭和53年の夏……私は本当なら死んでますからねぇ。…新米だった赤坂さんも同様に…。……一度落とした命を拾ってくれたあなたなら…この命をかけるだけの価値はあると思うんです」
「………………」
「まぁ、その時には私達が立ち向かうべき『敵』もはっきりしているでしょうし……。敵の目を欺くのは立派な戦法ですからねぇ」
「…ありがたい限りです」
「…それに…今日のあなたを見ていると……あとニ、三年はかかりそうですけど……この事件、必ず解決できると何故か思っちゃうんですよね」
「……そいつはまた不思議な現象ですね……」
「褒めてるんですよ? んっふっふっふ。とにかく…頑張りましょう」
「……ええ。そうですね!」

 ……オヤシロ様の……祟り。

 …祟りと称して人を殺す事が出来る日……。
 …………綿流しのお祭り…………。

「大石さん。綿流し祭まで、あと何日ですか?」
「…あと二日です。…短いですが、出来ることを考えていきましょう」
「……はい」


 綿流しまで――後二日。





        戻る