昭和58年夏。
俺、前原圭一は雛見沢という村に引っ越してきた。
引っ越した理由はいろいろあるが、親父の仕事関係、それともうひとつ理由がある。
俺のため、というものだ。
都会での灰色の生活を送っていた俺に、親が気を利かせてくれたのだ。

新しい学校。
生徒数は約30人ほどらしい。小さな学校だ。
先生にあいさつをして、教室に向かう。
新しい日々が始まる。・・・今度こそは・・楽しい学校生活を送れるといいんだが・・。

ガララ・・
扉を開ける・・。

ボフッ!
・・!?
なんだ!?頭上から何かが・・!
・・・黒板消し?   な・・これは・・黒板消しのトラップか・・?
それにしては痛い。中に何か入ってる。・・・・石・・・か?

「オーホッホッホッホ!みごとに引っかかりましたわね!」
なんだなんだ!?
あいつがやったのか!?・・・おのれぇ・・

クラス中が笑いにつつまれている。・・・こいつら・・・

「さ、どうぞ、自己紹介をして下さい。」
先生に促され、自己紹介をする。
「・・・は・・初めまして!前原・・圭一です!」
やばい・・緊張してるな・・俺。
「ここには引っ越して来たばかりなので、どうぞ、よろしく!!」


・・・・場がシンとする・・。
・・・なんかマズッたか・・?

「ええええええ!?」
「うお!?」
「前原さん・・ってあの!?」
「うわー本物だぁ!」
クラスの、とくに小さな子達が集まってくる。(といっても、ほとんどがそうなのだが。)
「え・・・な・・ど・・どうなってるんだ・・?」

「圭ちゃん・・帰ってきたんだ・・」
(・・?誰だ・・?初対面なのに「圭ちゃん」なんて・・なれなれしいな・・)

「圭一。」
「・・・ん?」
見るとそこには、小さな黒い髪の女の子が立っていた。・・・あきらかに・・年下だよな・・
またしても・・なれなれしいな。
この村の子供達はみんなそうなのか?
「おかえりなさいですよ。」
「??? は・・はぁ・・」
な・・なにを言ってるんだ?こいつら・・「帰ってきたんだ」とか、「お帰りなさい」とか、俺のことを知っているこの子達とか・・・
まるで俺がここに来たことがあるみたいじゃないか・・

おいおい・・俺はここには引っ越してきたばかりだぞ?ここに来たことなんて無い。なのにこの反応は・・・  どうなってるんだ!?

「圭一君。」
「ん・・?」
今度は栗色の髪の毛をした女の子が立っていた。
「魅ぃちゃんから話は聞いてるよ。当時・・凄かったんだってね。」

・・・・何のことだ?当時・・凄かった?
状況がまったく読めない。俺は自慢できるようなことをした覚えは無い。むしろ・・・

「オーッホッホッホ!」
俺の考えは馬鹿でかい笑い声にかき消された。
「私のトラップにわざわざ引っかかりに戻ってくるなんて!あなたも物好きですわねぇ!圭一さん!」
今度は黄色い髪の毛の女の子が高笑いをしている。さっきのやつだ。

「ちょ・・ちょっと待ってくれ!一体全体何の話だ!?」
これ以上謎を増やされてたまるか!!・・・そんな思いから俺は叫んだ。
「みんな、何の話をしているんだ!?俺は過去に自慢できるようなことなんて一つもしてないし、だいいち、この村にだって初めて来たんだぜ!?みんなが何を言っているのか分からないよ!」
「またまた〜圭ちゃんなに言ってるの〜」
さっきの緑色の髪の毛の女の子だ。
「ええい、なれなれしく呼ぶな!だいいち、お前誰だよ!?」
「へっ・・・!?・・そんな・・・」
「え・・なっ・・何で・・泣くんだよ・・」
「圭一君!今のはひどいよ!冗談になってない!」

な・・・・なんだと!!!
「な・・冗談!?そっちこそ何言ってるんだ!さっきも言ったが、俺はこの村に初めて来たんだぞ!?冗談をやめるのはそっちの方だ!!」
俺はひさしく大きな声を出していなかったので、怒鳴る、などをするのはひさしぶりだ。
俺の感情は、驚きと怒りで完全にパニックっていたので、コントロールができていなかった。

・・・・・
沈黙が流れる。
しばらくして、自分の失言に気がついた俺がいた。

「あ・・・ご・・ごめん!!!」
頭を下げた。・・すると・・。
「圭一。覚えてないのですか?」
・・・どうやら俺はここで何かしたらしいな・・だが・・。まったく記憶に無い。
「え・・と・・みんなが・・何を言ってるのか・・本当に分からないんだ。だれか・・説明してくれないか・・?」
さっき怒鳴ってしまったので、今度はできるだけ優しい口調で言った。
「ね・・ねぇ・・圭・・一・・君」
緑色の髪の毛の子だ。オドオドしている・・・やっぱり・・さっきのがまずかったのか・・
「あ・・!さっきは・・ごめんな。え・・と・・「圭ちゃん」でいいよ・・本当にごめんな・・」
「う・・うん。」

「・・それで・・・?どうしたんだ・・?」
「覚えてないなら・・教えてあげようか?以前の圭ちゃんを。」
「お・・おう。」
「この雛見沢ではね、10年くらい前・・ダムの底に沈みそうになってしまうの。」
「・・そうなのか・・?」
「うん。で、もちろん私達は必死に戦ったってわけ。雛見沢を沈められてたまるかーっ・・てね。」
「・・・それで・・?」
「そして・・五年前。圭ちゃんが現れたんだよ。「前原圭一」って男の子が。」

「な・・なんだって!!!???」

な・・・なんだって?俺が?
もちろん、そんな記憶は無い。
「ちょ・・ちょっと待て。同姓同名の別人・・てのはないのか・・?」
「まぁ・・そうなのかもしれないけど・・・ちょっと・・変なんだよね・・」
「え・・?なんだよ・・?」

「一緒なの。」

「・・・なんだって・・?」

「一緒なのよ。目の前にいる前原圭一と、私が五年前に会った前原圭一が。顔も・・体型も。」

「・・・!!!??・・どうゆうことだ・・?五年前に・・俺の容姿と名前を持った者が現れた・・!?」
「5年も前の話だから、その時の圭ちゃんの詳しい事情は忘れちゃったけどさ。・・・梨花ちゃんも見てるよね?」
「みぃ。まったく一緒なのですよ。」

俺は唖然とした。おかしい・・絶対におかしい・・!!

「で・・でも!それって矛盾するじゃないか!俺とまったく一緒ってことは普通じゃありえない。双子なんていないし、いたとしても名前は違う・・!そいつはおそらく俺だ。
でも!それじゃあ今ここに居る俺は!?どうなんだよ!?五年間まったく外見が変わらないとでも言うのかよ!?」
「うーん・・そこなんだよね。圭ちゃんがこの教室に入ったとき、正直ぎょっとしたよ。「なんで!?」ってね。」
「みー。ボクもなのです。」

「・・・話が脱線してきたね。・・・戻すよ?」
「あ・・ああ。」
「圭ちゃんはね、当時、ダム戦争を勝利へ導いたんだよ。」

「・・・へ・・?」

「今この村があるのも、圭ちゃんのおかげってわけ。」

「えええええ!!??」

な・・なにがなんだか分からなくなってきた・・
俺がこの村を救った・・?
そんなバカな・・そんなことはしていない。
・・・・・だけど・・・・
この村を救ったやつの名前、容姿は俺とまったく同じだという。

なんなんだ・・?なんなんだよ・・この村は・・・

雛見沢村。
俺はこの村で・・・不思議な体験をすることになる・・。


        戻る