「わーっはっはっはっは!!」
「うぅ・・圭ちゃんめ・・・。」
「な・・何なんですの・・!?この強さは・・!!」


やつらの言葉を聞けば分かるだろう。・・・そう。
俺は今最強状態にあった。
全戦全勝。いつも負けてばかりの俺はどこに行ったのかと思うくらいだった。


「け・・圭一君は強いなぁ・・!僕じゃまだまだ足元にもおよばないよ。・・尤もまだ誰にも勝ててないんだけどね・・。」
・・・。
考えてみれば俺がこうして勝ち続けているのも富竹さんのおかげだな。
・・一応感謝しとくぜ富竹さん。
綿流し六凶爆闘は少ない人数ながら、周りの人を巻き込んだため大賑わいとなった。

・・・・富竹さんがこなかったら俺はどうなってたんだろう・・・。
・・つくづく感謝するぜ・・。


「みぃ。残念ですが、ボクはもう部活ができないのですよ。」
「・・?何でだ・・?梨花ちゃん?」
「あちゃー・・もうこんな時間かぁ・・。そうだね。もう部活は中止! 梨花ちゃん、がんばってね!おじさん応援してるからさ!」
「みぃ。がんばるのですよ。」
「・・梨花ちゃん、何かするのか?」
「そういえば圭一君は知らなかったんだったね。」
「・・何のことだか・・。」
「奉納演舞っていってね、古手家の神主さんが鍬を使ってお布団を清め、中の綿を取り出すの。それが終わったら綿を川に流すんだよ。」

「へー・・それで綿流しなのか。」
「それでは、ボクはもう行くのですよ。」
「がんばるのですわよ・・!梨花!」
「まかせるのです。」

「私達もよく見えるところを確保しなきゃねぇ!」
「僕も写真を撮らないといけないんで、そろそろ行かせてもらうよ。」
「よし!行こうぜみんな!」


「ここだよ圭ちゃん。」
俺達は奉納演舞の行われる場所へと向かった。
ここであるんだな・・。

まぁ、「ここだよ」・・なんて言われなくても、その場にいる人の圧倒的な人数で分かっちまうがな・・。

「このお祭りのメインディッシュだもんな。」
・・・それにしてもこの村、本当にこんなに村人がいたんだな・・。
改めて思う。


・・・。
急にシンとなった。
いよいよ始まりってわけか。

そして・・梨花ちゃんが鍬を持って奥の方から出てきた。
顔は真剣一色。
重そうな鍬だもんな・・。

そうこうしているうちに、布団が運び込まれ、何か、専用の器具に干されるような形で梨花ちゃんの前に出された。
梨花ちゃんが鍬をふりかざす・・。

中の綿を布団から取り出して・・・それを別の人が運んでいく。

ドクン・・・。
ドクン・・。
ドクン・。

「うっ・・。」
力が抜けた・・。
俺は低い声をあげ、ひざをついてしまった。
・・・胸が苦しい・・。

「・・・どうしたの・・?圭一君。」
レナが小声で話しかけてきた。
「あ・・ああ・・。ちょっと・・気分が悪くてよ・・。」
「大丈夫?」
「・・・梨花ちゃんには悪いけど・・ちょっと風に当たって来るよ・・。」
「そう・・レナも一緒に行こうか・・?」
「いや・・俺のせいでレナまで梨花ちゃんの演舞を見れなくなったら嫌だから。・・一人で行くよ。」
「そう・・?それじゃあ、また後でね。」

レナが心配そうな顔をしながら俺を見送ってくれた。
・・・ありがとな・・。レナ・・。




・・・・風が・・気持ちいい・・。
見晴らしのいい場所だな・・。下の方には川が流れてる。・・人もいるな・・?
何か運んでる・・綿・・か・・?
この川で流すのか。

「・・・・・どう・・?じ・・さん・・?」
「・・・う・。もう・・・す・し。」
「早く・・いと・つかっちゃ・ま・よ。」

「・・?何だ・・?声が聞こえる・・。」

声のする方へ行ってみる。
・・人影だ・・三人分・・。

「だれかいるんですか?」

ビクッとしたようにその人達はこちらを向いた。
「・・え・・?富竹さんに・・魅音・・?」
そしてもう一人いた。・・・名前は・・知らない。
「や・・やあ。圭一君。」
「何してるんですか?こんなところで。それと・・魅音・・だよな・・・?お前こんなところで何してんだよ。」
魅音はしばらく何かを考えるしぐさをした。・・・そして口を開いた。
「・・今さら隠しても仕方がないのでもう言いますけど・・私は魅音じゃありません。私は園崎詩音。お姉とは双子の関係で、私は妹です。」
「え・・?魅音って妹がいたのか?」
「・・まぁ・・信じてくれなくてもいいですけど。」
「・・いや。信じるよ。魅音が梨花ちゃんの奉納演舞見るのをすっぽかしてこんなところにいるわけないからな。」

俺は視線をそらした。
・・・富竹さんの方へ。

「富竹さん・・写真を撮るんじゃなかったんですか?・・この建物・・カギがかかってるって事は・・入ってもいいものじゃないですよね?」
「あ・・ははは・・・・はぁ・・。」
「圭一君だったわね・・?」
もう一人の女性が話しかけてきた。
「はい。そうですけど・・。」
「私は鷹野三四。この村の診療所で看護婦をやってるの。」
「え・・と。・・前原・・圭一です。」
鷹野さんっていうのか・・。
診療所っていうと・・入江診療所・・だよな・・。
入江診療所には一度行ったことがあった。

鷹野さんは笑いながらこっちを向いた。

「ねぇ圭一君。この建物・・祭具殿っていうんだけど・・この中には古手家の者しか入ってはいけないとされているの。」
「は・・はぁ・・。」


そうなのか・・・?
この古い建物・・たしかにそんな感じだな・・。

・・少し興味

「この中に興味はない?」

「えっ・・。」
・・・心の中を読まれた・・そんなタイミングだった。
「もう一度聞くわ。この中に興味はない?」

・・・!!な・・何て目をしてやがるんだ・・!!この人は・・!!
「はやく返事を聞かせて。興味ある・・?それとも・・ない・・?」
「・・・あり・・ます・・。」
俺はそう答えた。
・・・答えないと・・消される気がした・・。
「そう。あるのね。・・・実は私達今からこの中に入ろうと思ってるの。あなたもどう?」
「え・・。」
・・・迷った。
この建物・・いわくつきみたいだし・・入ったら入ったで後から大変な目にあう気がする・・。
でも・・今の俺には選択権がない。
見られたからには共犯にしようってのか・・。
相変わらずのまなざしで俺を見ている。

「どっち?入る?それとも・・・入らない・・?」

「・・・・・・。」

助けは・・来ない・・な・・。
今は奉納演舞の真っ最中だ。
しかもかなり時間がかかるらしい。

「・・・入り・・ます・・・。」

「OK!いいわ。 いい?この中に入ることは誰にも言っちゃダメよ・・?」
「・・・はい・・。」

「それと。この中に入るなら・・引っ越してきたばかりのあなたにはぜひ聞いておいてもらいたい事があるの。」
「・・・何ですか・・?」

「オヤシロ様の・・祟り。」

「・・・オヤシロ様の・・祟り・・・?」

「そう。聞くことをオススメするわ。」

・・・俺に拒否権はない・・。

「・・・お願い・・・しま・・す・・。」


「一人が死んで一人が消える。これがオヤシロ様の祟りです。」
詩音が口を開く。
俺は・・とんでもないことに首を突っ込もうとしている・・・。
「圭ちゃんも知ってますよね?バラバラ殺人。」
「あ・・ああ・・。五年前に起きたやつだろ?知ってる。主犯がまだ捕まってないんだよな?」
「その通りよ圭一君。・・でもね。この村の人たちはこう思ってるの。主犯は逃げてるんじゃなくて・・消されたって・・。」
「なっ・・!?」
「まだ逃げてるんじゃなくて・・消されたのなら。そう、鬼隠しにあったのなら。まだ捕まってないのも・・分かるわよねぇ?」
「お・・鬼・・隠し・・?」
「俗に言う、神隠しというやつだよ。この村では、鬼が人をさらって行く、という言い伝えがあるんだ。」
「お・・鬼が・・人を・・。」
「そうよ。ダム工事の監督さんが死んで・・主犯が消えた。・・・これは祟りの入り口。」
「・・・入り口・・?」
「そうよ。まぁ、ここまでなら祟りでも何でもないわ。ただの殺人事件と失踪事件が同時に起こっただけ。」
「・・そう・・ですよね・・。殺人なんて今時珍しくもないですし・・。」
「入り口の理由を教えて上げるわ。まず、この殺人事件は・・綿流しの晩に起きたの。」
「・・!!五年前の・・今日・・!!」
「そして・・翌年の綿流し。また二人・・この世から消えるのよ。この時の犠牲者は二人とも旅行先で崖の下に落下するの。」
「・・・二人とも落下・・?どうゆう事ですか?」
「一人は遺体が見つかったけど・・もう一人が見つからなかったの。ちょうどその時崖の下が濁流だったのもあるのだけれどね。」
「・・・・。」
「さらにその翌年の綿流しの晩。今度は神社の神主さんが謎の病気で急死したの。奥さんはその日のうちに入水自殺をしたわ。」
「・・・・。」
「さらにその翌年の綿流しの晩。今度は近所の主婦が撲殺死体で発見されたの。そして
「やはりその年も失踪者がでました。名前は北条悟史君。」
「・・・・・・。」
俺は言葉を失った。
毎年毎年・・こののどかな村で・・謎の連続怪死事件が起こっていたなんて・・。
「それとね・・この人たちはみんな・・ダムの推進運動に協力関係にあった人たちばかりなの。」
「・・なんですって!?」
「一年目はダム工事の監督。二年目はダム推進運動の主格だった人物。三年目はダムの反対運動に消極的だった。四年目は二年目の犠牲者の親戚関係にあたるわ。」
「・・・ちょ・・ちょっと待ってください・・。なんか・・だんだん殺害理由がアバウトになってませんか・・?親戚関係にあっただけで祟り殺されるなんて・・。」
「そうね。今年はちょうど五年目の綿流し。誰が死んで誰が消えるのかしらね・・。」

「・・・・。」

俺は・・本当にとんでもないことに首を突っ込んでしまった気がした。

「まとめるとね。毎年綿流しの晩に誰かが死んで誰かが消える。これがオヤシロ様の祟りなのよ。」
「・・・オヤシロ様の・・祟り・・・。」

沈黙が流れた。
「・・・・・。」

「さて・・。決心がついたかしら。圭一君?」

「・・・・はい・・。」
「入るわよ。」

ガチャン!

カギが開いた。
・・富竹さん・・なんでこんなことできるんだ・・?



ギ・・ギ・・・ギギギ・・


「・・・!!??」

ギ・・・ギギギギギ・・・


「・・・・え・・・?」


ギギギ・・・ギギ・・。

「た・・鷹野さん・・!!ここの扉って・・・勝手に開くんですか!??」
・・・・。
・・・・。

・・・・?
「鷹野・・さん・・!???」

なっ・・!!
と・・止まってる・・?
鷹野さんが・・詩音が・・富竹さんが・・・いや・・この世界が・・止まっている。
誰も動かない。
草木も揺れない。風が吹かない。止まっている・・。全てが。


ギ・・・ギギ・・。

・・・じゃ・・・じゃあ・・。

「じゃあ何で・・開いてるんだよ・・!!」

嫌だ・・開くな・・!なぜ他が動かないのに扉が動く!?なぜ開く!?なぜだ!!
やめろ・・やめてくれ・・!何が・・何が起こってるんだ・・!!


ぺた


・・・・・!!!???


ギ・・ギギギ・・

ぺた ぺた

ギギ・・ギギギ・・

ぺた ぺた

「う・・・ああぁあぁ・・。」

ぺた ぺた

「来るな・・。」

ぺた ぺた

「来るな・・!!!」

ぺた ぺた ぺた


「来るなあああああ!!!」







!!!??



な・・何・・・?
「そ・・そんな・・。うそ・・だろ・・?」

思い・・出した・・・。
夢・・。俺が朝見た・・夢・・。

赤く染まり行く中・・俺が理解した・・・それ。
そいつは・・ありえない光景・・。



目の前に・・・・俺がいる。



前原圭一の姿をした生物がいる。


「・・・よ!」
「・・・!???」

そいつは俺に語り始めた。
そして俺を・・絶望へと導いていく・・・。


「・・・レが・・・えだ。」
「な・・・何だって・・・・・?」
「・・オレが・・お前だ。」
「・・・・・ ・・・?」
「オレがお前になる。昭和58年の綿流し以降は・・・オレがお前。」

「な・・・何だって・・・!?」

「!!??」

体に違和感・・・。
そ・・そんな・・・俺の・・体が・・透けて・・・??

足が・・動く・・。

祭具殿の中へ・・動く。

それは・・まるで祭具殿に呑み込まれるような・・そんな感覚・・。

足が動く。

体が透ける。

そんな・・・ そんな・・・。


扉が・・閉まる。


「オレがお前になるって・・そんな・・そんな・・!!!」

オレが笑ってる・・
扉の向こうで・・・

ギィィ・・・・・・

扉が・・閉まる・・

待ってくれ・・待ってくれ・・・













「無知ってのは・・時には武器にもなるが・・時には恐怖を生み出す糧にもなる。・・・・楽しかったぜ。」









扉の向こうでオレが言う。
闇に包まれていく・・・。
扉が・・閉まる・・・・。
頭の上に何かが落ちている気がした。
真っ暗で分からない。
それは俺を染める。



ギィ・・・・バタン。



世界が動き出す・・・。
何事も無かったかのように・・・。
俺が・・・オレになってしまった・・・・。

体が・・・き・・・・え・・る・・・・・・・。







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