「こりゃあ、ひどいですなぁ・・。」
「そうですね・・。いったい何をしたらこんな死に方をするんでしょうか・・。」
時は綿流しも終わり、その翌日。
その夜である。
静けさと暗闇があたりを包むなか、明かりがついている場所があった。
「大石さん!つれて来ました!」
「ごくろう熊ちゃん。 先生。こっちです。」
「一体何があったのですか・・?こんなところに私のような医者は必要ないのではないのですか?」
「いえいえ・・。それがですね・・。私どもでも考えてみたんですが、やはり専門の知識を持っている人のほうがよろしいかと思いましてね。」
「・・・?どうゆう事ですか?」
「・・ホトケを見てみれば分かりますよ。どうぞ。」
「・・・・・。」
入江はシートの下になっている遺体を覗きこんだ。
そこにあるのは・・ありえない光景だった。
「・・!!・・・これは・・・。」
「お分かりでしょうか?私どもではなんとも言えませんでしてね。・・先生はこれ・・どう思いますか?」
「・・・。ありえません・・。こんな事をさせる薬物などありませんし・・。」
「・・・そうですか・・。」
「なるほど・・。今年は富竹さん・・ってことか・・?」
「誰だ!?」
「こんばんわ。大石さん。」
「・・・・前原さん・・。」
「それにしても奇妙な死に方してますね。一体何があったんだ・・?」
「・・。前原さん。なぜここにいるんですか?」
「・・・・。なんとなく・・・ね・・。」
「・・・。その眼は・・何ですか・・?」
「・・・こいつですか?・・まぁ・・気にしないで下さい。あなた達には関係ない。」
「・・・・・・。」
入江は思った。
この雛見沢は何なんだ・・と。
この奇妙な死に方をした遺体。
そして・・・目の前にいる存在の異様なまなざし。
何が起こっているんだ・・と。
「今年は・・誰が消えるのかねぇ・・。あと一人・・必要なはずだ・・。」
「前原さん。・・・実はね。もうすでにこの世から消えていますよ。・・鷹野三四さんって人です。」
「・・・鷹野さんか・・。・・・クックック・・!!」
「・・・前原さん・・?どうしたんですか?」
「・・・おかしいと思いませんか?・・今大石さんはこの世から消えたって言いましたよね・・。」
「それがどうかしましたか?前原さん。」
「・・・。消えてないですよね。・・・この世から消えたって分かってるってことは・・・すでに見つかってる。」
「・・・。」
「まだ・・消えてませんよ。・・・・祭りの終わりは・・惨劇の始まり。」
「・・・・・・。」
「今年の惨劇は・・まだ終わっちゃいない。」
「・・・何が言いたいんです?」
「・・。何でもないですよ。」
「あっ・・!前原さん!」
前原圭一は闇に消えて行った。
・・・・・・。
暗い・・・・。
前が・・見えない・・。
ここは・・どこだ・・?
俺は・・なぜ・・こんなところにいるんだ・・?
ギ・・ギイ・・・。
なんだ?
光だ・・・。
ほんの少しだけど・・光が・・さして・・・。
「・・・・みぃ・・?」
「・・・ん・・?みぃ・・って・・・。」
どこかで・・聞いた事のある・・。
「どうしたんだ?梨花。」
「みぃ。祭具殿の中に人がいるのですよ。」
「な・・何だって!?」
「どうしたの?アナタ。」
「梨花が・・祭具殿の中に人がいるって言うんだ。」
「・・え・・!?あのカギを開けたの・・!??」
何だ・・?
騒々しいな・・。
「ねぇ・・君・・・梨花ちゃんだよな・・?」
「・・・・みぃ。・・そうなのですよ。」
・・あれ・・?
何て言うか・・。いつもの梨花ちゃんより小さいような・・。
「・・・どうしてボクの名前を知っているのですか・・?」
「え・・?」
・・・梨花ちゃんは・・何を言ってるんだ・・?
「梨花・・知り合いなの・・?」
「みぃー・・・。」
梨花ちゃんが困ったような顔をしている・・。
本当に・・知らないのか?
「ねぇ・・あなた・・名前は・・?」
「・・・前原・・圭一です。」
・・・・ちょっと待てよ・・。
背の縮んだ梨花ちゃん・・。
そしてこの男女・・。
・・・・まさか・・・・・。
「あ・・あの・・!今って昭和何年ですか・・?」
「・・・?ふふっ・・。不思議なことを聞くのね。今は昭和53年よ。」
「・・!!や・・やっぱり・・!!」
そうか・・。
そうゆう事かよ・・。
ずっと引っかかっていた・・・謎。
・・・そうだ・・。その謎を固く結ばれた結び目に例えるなら・・。
俺の中で今・・。結び目が・・解かれていく・・。
ははっ・・。
俺は今まで何を悩んでいたんだ。
そう・・。逆転の発想だ。
物理的不可能な事が起きた。・・だから何かのまちがいだと思ってた。
必ず何かトリックか何かがあるはず・・・・。
そう思ってた・・。
だけど・・それは間違いだ。
どんな事をしたってつじつまが合わない事もある。
ならば・・トリックなんて無い・・。実際に起こったんだ・・!!
「みぃ。・・圭一ですね?」
「ああ。そうだ。・・梨花ちゃん。」
梨花ちゃんの頭をなでてやる。
そういえば・・梨花ちゃんの頭をなでたことはあまりないな・・。
「圭一のなでなでは気持ちがいいのですよ。」
「・・そうか?よし。もっとなでてやろう。」
雛見沢の風景が目に入る。
とても美しい・・・・・。
「・・・駄目だよな・・。」
「・・みぃ・・?」
「この雛見沢を沈めるなんて・・絶対に駄目だ。」
「・・圭一・・。」
「・・俺・・戦うよ。・・この雛見沢を守るために。・・・あの幸せの日々を・・失わないためにも・・。」
今・・俺がすべきこと。
戦うこと。
雛見沢を守る・・!!
今・・俺がやらないと雛見沢がダムの底になっちまうってのなら。
・・・やってやろうじゃねぇか・・!!!
そう思った時。
急に力が抜けた・・。
・・・眠い・・・。
ポフッ・・・。
「・・・・圭一・・・・。」
・・・・・・。
・・頭をなでてもらってる気がする・・。
まどろんでる俺は・・・かすかにそう思った・・。
カナカナカナカナ・・・・。
カナカナカナカナ・・・・。
・・ひぐらしが・・鳴いてる・・。
ひぐらしの鳴き声に目をさます。
・・何故だろう・・。とても・・悲しい・・。
まるで・・ひぐらしがダムに沈んでしまうこの土地を哀れんでいるような・・。
ひぐらし達も・・悲しんでいるのか・・。
「おはようございます。・・前原さん。」
・・・?・・誰だ・・?
「・・・あ・・!お前・・魅音・・か・・!?」
「えっ・・?何故・・私の名前を・・?」
「う・・うーん・・。何故って言われるとなぁ・・。俺とお前は・・仲間だったからな。他のどんなものにも変えがたい、大切な仲間だからさ。」
そう言って頭をなでてやる。
「は・・はぅ・・。」
「・・そうだ魅音。俺のことは「圭ちゃん」って呼んでくれ。「前原さん」なんてお前に呼ばれると・・なんつーのか・・。俺・・駄目になっちまうからな・・。
敬語もなし。・・・・な・・・?」
「け・・・圭・・ちゃん・・。」
「それと。五年後に俺がお前を傷つける事を言うかもしれない。
その時は・・気にしないでくれ。そいつは・・何も知らないだけだから・・・さ。
だから、先にあやまっとくよ。・・・ごめん。」
「う・・うん・・・?」
魅音は俺が何を言ってるのか分からないようだ。
まぁ、無理もないがな。
「圭一。起きたのですか?」
「よぅ!梨花ちゃん。」
「魅ぃ、圭一に聞きたい事は聞けましたか?」
「あ・・!そうだった! 圭ちゃん・・いいかな・・?」
「・・?ああ。いいぜ。」
「どうして祭具殿の中にいたの?」
「・・!??」
・・・・場の雰囲気が・・変わった・・。
「カギがかかってたはずだけど・・。圭ちゃんが入った後、カギはちゃんとしまってた。どうやったのかも聞きたい。」
下手な事を言えば・・消される。
・・そう思った。
「ありのままを話すぜ・・?」
「うん。・・そうして。」
「・・・まず・・俺は昭和53年に本来いるべき人間じゃない。俺は・・昭和58年から来たんだ。」
「え・・・?」
魅音は驚いているようだ。
まぁ・・普通の反応だよな・・。
「俺は昭和58年の綿流しの日に・・祭具殿に呑み込まれた。」
「の・・・呑み込まれた・・?」
「ま、正確に言うと俺の足が勝手に動いて、これまた勝手に開いた祭具殿の扉をくぐった・・ってわけだ。」
「圭一・・。本当ですか・・?」
「ああ。本当だ。それで、気がついたらここにいた。」
沈黙が流れた。
・・・・しょうがないかもしれないのだが・・。
「って言ってるけど・・信じてくれないよな・・。」
「いや・・私は信じるよ。圭ちゃんのこと。」
「ボクも信じます。」
「・・魅音・・梨花ちゃん・・。」
「さっき圭ちゃん大切な仲間って言ったよね?・・あれ・・五年後の私達のことでしょ?」
「ああ。そうだ。」
「ボクの名前を言い当てたという事実もあります。」
「私の名前も言い当てたもんね。まあ、二人ともここじゃ結構有名なんだけど、顔見知りの多い雛見沢で知らない人が私達の名前を言い当てるなんて普通じゃできないよ。知らないことは来て間もないってことだからね。」
「・・やっぱり・・時は違えど二人は二人だな・・!ありがとう。」
「圭一。」
「・・ん?何だ?」
「圭一はこの雛見沢を守ってくれると言ってくれました。ボク達の故郷を・・本当に守ってくれるのですね?」
「ああ。 当然だぜ!!」
「・・なんだか・・圭一が言うと本当にそうしてくれる気がするのです。」
「まぁ、まかせとけって。 そうゆう事だからさ。・・魅音。」
「えっ!?・・何?」
「こき使ってくれ。必ず・・答えてみせるぜ。」
「・・うん!!ありがとう・・!!」
日が沈む。
俺たちは・・誓い合った。
ひぐらしのなく頃に。
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