「ふー・・・ 終わった・・・」
「圭一君、お疲れ様」

俺は自分の役割を終えて戻ってきた。 何の役割かというとそれはもう決まっているのだが、今回からは活動を盛んにすることになっていた。
今、俺がいるのは市役所だ。園崎家の協力の下、ダム建設がいかに不適切かを叩き込んできた。
まず、費用。 ダムを作るのだから、それだけ費用がかかる。 雛見沢村にそれだけの費用をつぎこんでダムを作ったとしても、
そのダムを利用してお金を稼ぐ程度では取り返せないほどの大事になることを言ってきたのだ。
村を沈めてダムを作るのだから、当然住民に住居を与えなくてはならない。いくら人口の少ない村とはいえ、全員分のを確保するにはかなりの費用がかかるのだ。
その程度は覚悟している、と言われてしまったが、俺はまだ口を閉めない。
次に言ったのは雛見沢の歴史についてだ。
村を沈めるのだから、歴史もそのまま沈んでしまう。
もちろん、お年寄り達はこれからもオヤシロ様を崇めるだろうがそれもいつしかなくなってしまうだろう。
村が沈めば、歴史も沈んでしまうのだ。
・・・これも、ダムの建設には関係ないと言われてしまったので、とっておきを出すことにした。

「雛見沢を沈めれば・・住人は間違いなくあなた達を殺しに行きますよ?」

そう。一番恐ろしいのはここにあるのだ。雛見沢の住人は、このダム戦争でかなりの暴力沙汰をやっている。
5年後にいた時にも聞いてはいたが、実際に現場を見れば本当に人を一人くらい殺してしまいそうな勢いなのだ。
それは市役所の役人達も充分承知のようで、相手は口を黙らせた。ここからは俺のペースだ。

「雛見沢村の消滅は・・国家を消滅させるのと同じです。 ダム建設にかかわった者は一人残らず殺害されるでしょう。怒り狂った住民には人の声なんて届かない。全滅するまで殺戮を繰り返します。あなた達はこの日本に血の雨を降らせる気ですか?」



と、最後に言い放ったこの一言で相手方は完全に沈黙。
さすが、市の問題はよく知っているようで。 
もっと立場上、上の人と話を出来るようにしてもらった。 ・・実際、建物の外は雛見沢の住民であふれかえっていたしな。



こうしてさらに一歩すすんだわけだ。
そして、俺はダム現場監督のおやっさんのところにもちょくちょく顔を出していた。
そのたびに周りを黙らせてやったので、今では結構いい仲となっている。
周りの人たちも、俺に好印象を持ってもらえるように、黙らされるのを承知で協力してくれているのだ。

今では、村長さんとの協力、そしてダム工事現場監督のおやっさんとの交流もあってか、ダム建設も消極的になってきたのだ。






そう。全てはいい傾向に向かっているのだと思っていた。 ・・・だけど・・・ある問題が浮上したんだ・・。

「最近は北条家のもんがイラだっとるようさね。」
「・・北条家・・?・・沙都子の家か・・。あの、沙都・・いや、北条家がどういう状況にあるのか、教えてくれませんか?」
「北条家のもんは、ダム推進派として積極的な家やけんね。最近はお前さんの活躍もあって、ダムの進行がだんだん消極的になってきたけん、イラだっとるんよ。」
「・・・そう・・なのか・・・。 ・・・雛見沢が沈まなくてすむのに・・・・そもそも、何でダムに沈むことを賛成しているんですかね・・?」
「おそらく・・金・・だろう。ダム推進派の者には、多額の金が支払われとるんよ。北条家もそれが目当てだろう。」
「・・ちっ・・・。金ってものは・・どこまでも人を腐らせるな・・。こんなんだから沙都子はつらい目にあうんじゃねぇかよ・・・。」
「・・・あの娘とその兄ちゃんも・・かわいそうなこったね。親がしっかりしなと、子はしっかり育ちなんかせんちゅうのに。」
「確かにその通りだ。金は人を駄目にする。実際には買収されているのとなんら変わりないのだからね。」
「・・村長さん・・・。」

村長さんが俺にそう言った。確かにそうだ。
金をやるから雛見沢を沈めるのを手伝ってくれ、というのでは、買収されているのと同じである。
・・そこまでして手に入れたい物なのかよ・・。金ってのはよ・・・。

「北条家はかなり積極的にダム推進に貢献しているようだから、ダム計画がなくなった時には、かなり手痛い目に遭うだろう。」
「・・沙都子・・。」

親がしっかりしないと・・か。父さん・・母さん・・今頃どうしてるのかな。 
・・最近よく思うことである。この時代に来てから、時々思っていたのだが、最近はよく思うようになっている。
やっぱり俺は、昭和58年の人間なんだ。・・早く・・帰りたいな・・。


「圭ちゃーん!」
「魅音か。」
「何の話をしていたの?」
「北条家の事について・・な。」
「・・ああ・・・北条家がどうのこうのって婆っちゃ達も言ってるからね・・。」

「・・沙都子は・・よ。5年後・・俺の仲間だったんだよ。・・未来の話なのに過去形ってのもおかしいけどさ。・・・俺の・・仲間なんだ。 生意気でトラップを仕掛けて俺をコケにしようとして。・・そんな奴だけど・・大切な仲間なんだよ。・・だから・・俺はあいつを守ってやりたい・・。」
「・・・・圭・・ちゃん・・・?」
「何て・・言ってみたけど・・俺がどうこうするなんて出来ないんだよな・・。結局は北条家の問題なんだからな・・・。」

北条家・・か・・・。 確か・・二年目の祟りの犠牲者・・・。 ・・あれ・・? ちょっと待てよ・・。
たしか・・そうだ。四年目・・!沙都子と、その兄、悟史を虐めていた・・沙都子の叔母が殺されたんだったよな・・!
そして・・悟史が行方不明に・・・・。

何でだ・・? ・・何で北条の名を持ってる人がこんなにもいるんだ・・?
北条家がダムの推進をしたからか?それとも何か別に理由があるのか? オヤシロ様の祟り・・?
オヤシロ様の祟りって何だ? 何故綿流しの日に二人の人間がこの世から消えるんだ?何故綿流し祭は毎年行われるんだ?
何故だ・・・なんでだ・・・!!



ドクン




ワタシガ・・ハナシチャッタカラ・・!!!



何だ・・・これは・・?



ダカラケサレチャッタ・・!!!


何だ



シタシイモノカラケシテイクンデス・・!!!










「うわあああああっ!!!」







「・・!? ど・・どうしたんだ圭一君!?」
「け・・圭ちゃん!?」
「坊主!?」


親しいものから消していく・・? 何だ?何だ?
・・そうだ・・詩音が言っていたんだ。
あいつらは親しい者から消していくって・・!!
あいつら? あいつらって誰だ。 誰がそんなことをしているんだ!? 誰が・・誰が!?
「圭一君!!」
親しい者から消していく?何故そんな事をするんだ!!!
何で・・何で!!
「ちょ・・圭ちゃん!!返事して!!」
どうして!?何でそんな回りくどいことをするんだ!!!どうして苦しめるようなことをするんだ!?
そんなことをするのに何の意味があるんだ!?無意味に罪を重ねるだけじゃないのかよ!?





ワタクシ・・チイサイコロニサイグデンニハイッタコトガアリマスノ・・・。



デルニデラレナクテ
何だこれは
ワタクシハブラサゲラレテイタカゴヲツタッテこれは何だ





ワタシハ・・サイグデンニハイッタバカリカ・・シンユウヲミステタンデスノ・・ダカラ・・ダカラオヤシロサマガツイテクルンデスノ・・!!!
ワタシニタタリヲアタエテイルンデスノッ・・!!







沙都子は・・祭具殿に入っていた・・?


たしか・・かくれんぼをしていたんだよな・・・。 何だ・・?何か・・大切なことを忘れてるような・・。
何を忘れてるんだ・・? かくれんぼ・・・祭具殿・・・。


「―――――――っ!!待てよ・・今日はたしか・・沙都子と梨花ちゃん達は・・かくれんぼをしてるんじゃなかったか!?」

こうしちゃいられねぇ!!間に合え!!

「ちょ・・圭ちゃん!?」

走った。俺は・・とにかく走った。沙都子と梨花ちゃんにつらい思いをしてほしくなかったから。
運動能力も最大限に上げた。身体の痛みなんて関係ない。今はそんなことを気にしている場合じゃない・・!!
間に合えっ!!間に合えっ!!間に合えーーーっ!!!!



「ハァ・・ハァ・・・ ・・ぐっ・・」
俺が古手神社に着いたときには、もう体中が痛くてしょうがなかった。
眼を変化させている時にはそれほど痛みはないのだが、変化をといたときに痛みが身体を走るのだ。
長く変化させればさせるほど痛みは大きくなっていくので、目的地に着いたらすぐ戻した方がいいと思ったのだが・・
甘かった・・・。
畜生・・!!!さっきそんな事気にしている場合じゃないって言ったろ・・!!!?
何で元に戻しちまったんだ・・!!! これじゃあ・・痛くて・・探すどころじゃ・・ない・・・。

・・おいおい・・なんで俺はあきらめてんだ・・!あきらめたら終わりなんだ・・。
せめて・・あの二人を悲しい目にあわせないためにも・・今は動くときだろ・・!!

「・・・ ・・っ!!!」

俺は再び眼を変化させ、二人を探した。
眼の変化は、一日に一度だけと決めていた。何故なら、二度目は痛みもさらに増し、そして一度目の痛みも消えないからだ。
しかも眼を発動させている間中、痛みはどんどん増していく。

・・だけど・・無茶したって・・沙都子を・・助けないといけないんだ・・。
あいつらは・・俺を・・受け入れてくれたんだから・・

恩返し・・しないとな・・・。

・・・へっ・・・まただ・・未来の俺が受けた恩を・・過去で返す・・か・・・。
沙都子たちには何のことやらわからないんだよな・・・。
・・・まぁ・・そんな事はどうでもいい・・今は・・祭具殿を目指せ・・!!!前原圭一!!

















「あら・・?ここから中に入れますわ。」
「駄目・・だ・・・」
「この中なら誰にも見つかりませんわね・・」
「駄目だ・・・!」
「よーし・・飛び込めない高さでもありませんわね・・!」



















「駄目だあああああっ!!!!」









「えっ!?」
「沙都子・・!!入っちゃ駄目だ・・!!」
「圭一・・さん・・。」















「・・・ばかやろう!!何で入ろうとしたんだ!!」
「・・・つい・・。」
「・・あそこはな・・興味本意で入っていい所じゃないんだよっ・・!!入ったら必ず後悔する・・!それは!!お前も・・俺だって!!よく理解しているんだ!!」
「け・・圭一さん・・?」
「興味本意で入って・・どれだけ後悔することか・・・ ・・・沙都子・・一度・・経験があるから言うぞ・・祭具殿には・・興味本意なんかで絶対に入るな・・!!! ・・いいな!?」
「は・・はい・・・。」
「分かれば・・い・・い・・・。」
「け・・圭一さん!?どうしたんですの!?圭一さん!?」

それに・・あの中の光景は・・沙都子には・・見せたくない・・・・。


「圭一。・・ありがとうございますです。」
二人の姿を見て、静かに微笑む梨花がそこにはいた・・・。

















「・・! ・・こ・・ここ・・は・・」
「気がついたようですね。」
「監督・・。」
「? 監督・・ですか?」
「・・! あ、いえ。 気にしないで下さい。」
「・・分かりました。   それはそうと、あなた・・何をしたんですか・・?体中の筋肉が異常なまでに収縮したりしていましたよ?」
「・・へへ・・ちょっと無茶してしまいました・・。 ・・そうだ!沙都子は・・沙都子はどこに!?」
「沙都子ちゃんは梨花ちゃんと一緒に私が帰しました。・・あまり見ていて気持ちのいいものでは・・ありませんでしたから・・。あなたの筋肉の収縮時は・・。」
「そうですか・・まぁ・・いいか・・・!沙都子は・・祭具殿に入らずに済んだし・・。」
「圭ちゃーん」
「魅音・・。あ・・!俺・・・・。」
「気にしなくていいよ。色々あったそうだし・・。圭ちゃんは沙都子を守ってあげたんだから・・ね。」
「・・ありがとう・・。」
「そうだ圭ちゃん、ちょと来て!」
「え? おわっ!!ちょっと!!」
「ほほえましいですね。おっと・・私もそろそろ行かなくては・・。前原さん、あまり無茶はしてはいけませんよ。」
「分かりましたっ・・うわっ!!ちょ・・引っ張るなよ魅音!!」





「本当にほほえましい。 ・・・あの子達には何も知らずに育って欲しいものだ。 ・・もう本当に時間がないですね・・。行くか・・。」







「え・・!?それ・・本当かよ魅音!!」
「本当!ちょっと用があって行ったらさ、そんなこんなになってたのよ!」
「・・でも・・そういうのは・・・!」
「行ってみようよ圭ちゃん!」
「あ・・ああ・・・。」









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