「行ってみようよ!圭ちゃん!」
「あ・・ああ」


俺は魅音にそう言われ、そして承諾してしまった。
俺が魅音にさっき言われたこと。 ・・・それは・・・・。







「実は私、この間婆っちゃと母さんが話しているのを聞いたんだけど、どうやらこの村のはずれに、犯罪者がいるらしいんだよね」
「は・・犯罪者・・!?・・って、一体・・何の・・?」
「圭ちゃんは知らないかな・・?大臣の孫が誘拐されたって事件があってね。そして、その孫がそこに居るって言っていたの。園崎家の情報網は優秀だから、おそらく本当だよ」
「おいおい、大臣の孫がさらわれたって・・・そんな事が起きているのなら、テレビや新聞で取り上げられないはずがないだろ?」
「それがね、圭ちゃん。大臣の孫が誘拐されて、身代金を払った・・なんて世間に知れ渡ったら、大変なことになっちゃうでしょ?だから、極秘で扱われているんだよ」

・・・ん・・?極秘・・?
えーと・・ ・・そうだ・・!赤坂さんだ! 赤坂さんがこの村に来ていた理由・・そんなことがあったのか・・。
・・しかし、極秘なんだよな・・? ・・園崎組って・・本当にすごいな。

「ねぇさ!圭ちゃん! 見に行ってみようよ! ね!?」
「・・でも・・そういうのは警察に任せたほうがいいんじゃないのか?」
「警察なんかあてにならないよ。・・圭ちゃんだって知ってるんじゃないの?・・新米刑事の事。あいつが解決できると思う?」

・・たしかに・・そうかもしれないが、やっぱり赤坂さんだって警察だ。
犯人逮捕のために死力を尽くしてる。その努力を無駄にするのも・・なぁ・・。
それに大石さんだっているんだぞ?
大丈夫じゃないのかなぁ・・。

「・・・うーん・・・・」



「・・・分かったよ!もういい!私一人で行く!」
「な!?危ないって!」
「行くったら行く! 止めたって無駄だからね」
「・・分かったよ・・!行けばいいんだろ!?行けば!!・・どうなっても知らないぞ・・」
「やったー!圭ちゃんならそういってくれると思ってたよ!」
「・・・はぁ・・・。」
「それじゃ行ってみよ!圭ちゃん」
「・・あ・・ああ」
 

・・と、こんな事があったのだ。・・魅音にも困ったものだな・・・。
・・・?

・・あれ・・?魅音って・・・・・・。




・・・・・・・。




「・・・おい、魅音」
「なーに?圭ちゃ・・ ・・!?」

俺を見た魅音は後ずさりをした。
俺は眼を変化させて、魅音を見つめた。 ・・・・魅音の反応は、どう見ても初めて見た奴の反応だった。
もう2回も使っているため、確認のためだけに使うのもどうかと思ったが、痛みも消えていたし、何より魅音の反応を見たらすぐ戻したので使った後それほど痛みもこなかった。



「・・お前・・詩音だろ?」
「・・へ・・?!な、何言ってるの。私が詩音?私は魅音だよ」
「・・違う・・よな。・・お前は魅音じゃないな? ・・お前は・・詩音だ!」
「・・だから、違うって。・・私は魅音。圭ちゃん、何を言ってるの?」

・・あくまで魅音で通す気だな。・・甘いぞ詩音。

「・・じゃあ聞くが、さっき俺の眼を見せたときの反応は何だ?どう考えても初めて人の眼が変化したのを見て動揺していたように見えたが?・・魅音はこの眼のことを知っているぞ?」
「え・・・」
「・・図星だな。・・」
「・・・・ ・・お姉に聞いたんですか?」
「・・ま、そんなとこだ。 ・・しかし、何でまた魅音になりすましてたんだ?」
「・・うーん・・・誰にも言っちゃ駄目ですよ?実は、今日は園崎家の秘密の会議とやらがあるそうで、お姉はそっちに行かないと行けなかったんです。
 それで、私が変わってあげようかと思いましたが、どうも議題にされるものの量が結構あるみたいで、私が出ていたらボロが出るだろうって思ったんです。
 圭ちゃんが心配だから見に行ってあげて!って頼まれましてね。・・で、いきなり詩音ですって言っても双子だから信じてくれないと思ったんで、お姉の姿を借りた・・ってわけです」
「・・なるほどね。しかし魅音に心配されてるようじゃ俺もまだまだだな。そのうち、圭ちゃんなら大丈夫!・・とか言わせてやるぜ」
「そうだ、圭ちゃん。犯罪者達の事ですっかり忘れていたんですが、お姉から圭ちゃんへ誕生日プレゼントをあずかってます」
「・・・誕生日?俺の誕生日はとっくに過ぎたぞ?」
「過ぎたから、遅いかもしれないけどあげておきたい・・だそうです。 ・・まったく、自分から渡しにいけばいいのに・・」
「・・ふーん・・まぁいいか。ありがたく受け取っておくよ。・・開いてもいいか?」
「いいでしょう。それは圭ちゃんのものですし」

俺は詩音から渡された袋の中を見てみた。 ・・中に入っていたのは、ハンカチだった。
どうやら、魅音が作ったようだ。明らかに店で売っているのとは違う。

「魅音に伝えておいてくれ。最高のプレゼントをありがとう ってな!」
「・・はい。承りました。 ・・それでは圭ちゃん、・・行きましょうか?」
「・・やっぱり忘れてなかったか・・・分かったよ」


俺が、ここにいる魅音は本当に魅音なのかと思った理由。
・・それは、次期頭首がわざわざ自分から危険な所に行ってもいいものか・・という点だった。
次期頭首が今の頭首より先に亡くなった・・なんて、シャレにならないからな。

・・そんな事を言ってしまうと詩音はどうなんだ・・となってしまうのだが・・・。
・・それに詩音は気づいたのか・・気づかないのか・・・知っているのは詩音だけである・・。


「・・詩音。俺が必ず・・守ってやる。 ・・必ずな」
「・・・期待してますよ。 まぁ、がんばって下さい」
「人事のように言うなよな。・・お前の事だぞ?」
「・・私は・・いいんです。  ・・私なんて・・いてもいなくてもいっしょ・・なんですから」

・・・何を言ってるんだ・・?
いてもいなくてもいっしょって・・そんな訳ないだろ?

「何を言ってるんだよ。そんな訳ないだろ」
「・・そんな訳あるから言ってるんですよ・・。私・・園崎家から必要とされてないんですよ?私が・・詩音だから・・」
「・・詩音だろうが魅音だろうが。・・この世に生まれてきたからには、誰かに必要とされてるんだよ。自分では気づいてないだけだ」
「・・・嘘です・・っ!!じゃあ・・じゃあ何で皆私に冷たくするの!?何で私にかまってくれないの・・!?何で・・何で・・お姉は・・皆と一緒に遊びにいけるの・・?どうして・・どうしてですかっ!!」
「どうしてって言われてもな・・・俺はお前の家のことなんか知ったことじゃない」

「だったら余計なお世話です!! 二度とそんな話をしないで下さ」


「何度だってしてやるさ!!」


「・・・」
「あのな・・俺はお前の家の事に関しては、本当に何も知らない。・・だけど、これだけは言えるんだ」
「・・なんですか・・?」
「‘詩音’という名前を持って生まれてきた事を誇りに思え。お前は大切にされているんだ。・・名前はその表れだよ。親が名前を決めるとき、その名前には願いが込められるんだ。
 ‘詩音’にも必ず願いはこめられている。 そして、願いを込められた名前を授かったということは、お前を必要としている人は必ずいるんだ。
 親はもちろん、他にも沢山、沢山いるんだよ。・・それはお前が気づいていないだけ。気づこうとしていないんだ。
 だから、周りをよく見てみろよ。必要とされているかどうか、判断するのはそれからでも遅くは無い。
 ・・それに・・お前は必要とされているだろ・・? ・・・ほかならぬ・・・魅音にさ」

「―――っ・・!!」

「・・・ちょっ!?詩音!?」

詩音は俺に抱きついて、・・そのまま、泣いていた。
まだ詩音も10歳だ。・・そんな事があって・・さっきまで笑顔でいたのも不思議なくらいだ。
・・・強い・・な・・。詩音も・・魅音も・・。
おそらく魅音だって、詩音のつらい気持ちに気づいているだろう。
生まれてくるのが先か、後なのか。
それだけの違いで、こんなにも境遇が違うなんて・・・





「詩音は・・まだ・・知らないだけなんだ。・・気づくために努力をしてみろよ。他の人がどんなに大切に思っていたって、詩音自信が、自分は大切に思われていないんだ・・とか思ってしまったら、そこで終わりなんだぜ?
 まだ終わっちゃ駄目だろ?」

「・・・・・・」

「俺・・思うんだよ。・・魅音がお前と変わってくれって言うときは、詩音の気持ちを少しでも理解してあげようと思っているからじゃないんだろうか・・ってさ。
 お互いがお互いになるためにはさ、相手の事をよく知らないとならないだろ?・・だから魅音は、自分も詩音の気持ちを味わって、そして分かち合おうって、そう思っているんだよ。
 ・・お前達は血を分けた姉妹だ。大切に思わないわけ・・ないだろ?
 魅音は魅音。詩音は詩音。一人の立派な人間だ。 それぞれが立派な‘心’を持っているんだ。
 魅音は詩音の‘心’を分かってあげようと入れ替わりをしているんだ。 ・・詩音も、その気持ちに気づいてやれ。
 他の人だって、お前を必要としているはずだし、大切に思ってる。生まれてきたことに、誇りを持て。何があってもくじけるな。
 たとえどんな境遇であろうと、‘信じあえる仲間’さえいれば、どんな事だって跳ね除けられる!
 ・・それは・・どんな人間だってそうなんだ。・・それを・・・教えてくれた奴らが、俺にはいる。」

「・・圭ちゃん・・」

「とりあえず、俺は裏切ったりしないぜ?・・何があっても・・守ってやるからな。
 もし、何か不幸な事があったりしたら、俺を信じてくれ。・・信じていれば・・奇跡だって起こせるんだ。俺に教えてくれた奴らに教わった。
 信じる心が大切だってな・・。
 疑っちゃいけないんだ。疑ったら、その時、自分自身も相手を裏切ってしまったのと同じだからな。・・最後まで信じ続ける。これが・・大切なんだよ」

「・・そっか・・・ ・・そう・・だよね・・・・」
                                  
「・・・」

「・・あ・・あり・・がとうね・・圭ちゃん・・・・。私・・自身が持てたよ・・」






「・・ま、そういう事だ!案内してくれよ。俺も興味が出てきたからさ!」
「うん・・っ!こっちですよ!」

俺は魅音からもらった金属バットを手に、詩音についていった。










「・・見えてきました。・・あれです」
「あれか・・いかにも・・って感じだな」

森を抜けた先に、少し広い場所があり、そのすみの方にひっそりと建物が建っていた。 
園崎組は色々な噂がたっているようだから、おそらく園崎組に罪をなすりつけようという輩だな・・。
まったく、園崎組からしたら迷惑な話だな。

「それがそうでもなかったりするんですよ。圭ちゃん」
「・・え?・・どうして考えている事が分かったんだ?」
「何言ってるんですか。ぶつぶつ言ってたじゃないですか」
そういえば俺には考えている事を口に出してしまう何とも迷惑な癖がある。
早く直したいものだな。
「そうでもなかったりするって・・一体どういう意味なんだ?」
「園崎組は、思わせるのが得意なんですよ。今回の件の黒幕は、園崎組で、園崎組に逆らうと大臣の孫でも何でも捕らえるぞ、って感じで、とにかくイメージを大きくしていくんです」
「なるほどな。たしかにそうすれば相手の方にはかなりのプレッシャーをかける事が出来るな・・」


「・・あ・・あれ・・?・・ねぇ、圭ちゃん。あれ・・入江先生じゃないですか?」
「え・・?あ・・!本当だ・・!監督がいる!」
「・・監督・・?」
「・・あ、いや、・・何でもない。気にしないでくれ」
「・・?」

またやっちまった・・。ここは昭和53年なんだ。53年、53年・・・。


「・・そんな事より、何で入江先生がいるんだ・・?」
「・・さぁ・・入江先生のことだから・・共犯・・とかは・・・・ない・・と思いますけど・・」
「・・ちょっと、会ってくるよ」
「あ・・!ちょ・・圭ちゃん!?


 待ってください! ちょっと・・・  んぐっ!?」



「んぐーーーっ!!」

「・・・」









「かんと・・・入江先生!」
俺は監督の車の前方で手を振って、車を止めてもらった。
「おや・・?前原さんじゃないですか?一体どうしたんですか?」
「あの、さっき建物から出てきましたよね?何かあったんですか!?」
「ああ、私の所に診察しにきてくれ、って電話があったから、ちょっと行ってきたんだ。・・しかし、住所もあんな所だし、それに中に居た人達はとても普通じゃなかったですね」
「そう・・だったのか・・よかった・・」
「・・?何がよかったんですか?」
「いや・・誠に申し訳ないんですが・・俺、かんと・・・入江先生の事を、疑っちゃったんです。・・だから・・ ・・すみませんでした・・」
「・・まぁ、何も知らなければしょうがないことです。おきになさらないで下さい」
「はい。・・ありがとうございます」
「・・充分注意してここから早く離れなさい。・・このあたりは危ないですよ。・・それでは、私はもう行きます。」
「・・はい。 おーい! 詩お・・・・ ・・!?」

あれ・・? 詩音!?  どこいったんだ!?詩音!?
どこに行ったんだ・・? まさか・・奴らに!?















「キャッ・・・な・・何すんのよ!!」
「こいつはいいや。たしかこいつ園崎組の次期頭首だぜ?」
「へっへっへ・・!ちょいと危険な橋だが・・大もうけできるな」

「・・そんなの・・無駄よ。・・だって・・私なんか・・・



お前は必要とされているんだ。


ほかならぬ・・魅音にな。


最後まで信じるんだ



信じていれば・・奇跡だって起こせるんだ



俺が必ず・・・





「・・・守ってくれる・・圭ちゃんが・・守ってくれる・・・!」






















「畜生・・!!!」


俺は持っていた金属バットを振り回し、回りのものを叩き壊した。
自分が・・情けなくて・・あれだけ言い切ったのに・・詩音を・・危険な目にあわせてしまっているんだ!!

「うわあああああ!!!」


畜生・・畜生・・・。助けなきゃ・・助けなきゃ・・!!!


魅音からもらった金属バット。 こんなもの必要とする時がこなければいいと思っていたが・・


「今は・・こいつがいる・・!!」


落ち着け・・冷静になれ・・!! まずは状況判断だ・・・。
詩音はおそらくあの建物の中にいる・・。いや・・詳しい場所は分からないが・・それは奴らから聞き出せばいい!
問題は相手が複数だってことだ・・
監督は‘人たち’って言っていた・・!相手は複数・・!
バットだけで戦えるのか・・!? いや・・!!
戦わないといけないんだ・・!!詩音を助けるためにも!!!


「詩音・・必ず助けてやるからな・・!!!」






「おやぁ?」
「 !? 誰だ!?」
「前原さんじゃありませんか」
「お・・大石さんに・・赤坂さん!」
「どうしたんだい?こんなところで」
「お二人こそ・・どうしたんですか・・?こんなところに!?」
「我々は仕事ですよ。・・前原さんは?」

・・どうする・・話すか・・? ・・・ここは・・・協力してもらった方が得策か・・・。

「実は――――――・・」





「・・なるほど・・詩音さんが・・・」
「お願いします・・!力を貸してください!」
「んっふっふっふ・・!よろしい。一緒にとっちめてやりましょう。ね?赤坂さん」
「圭一君。案内してくれるかい? きっと私達の仕事現場もそこだ」
「分かりました!」

赤坂さん・・まるで別人だな・・。新米とはいえ、やはりこの人も刑事さんなんだ。
さっきは失礼なことを考えてしまい申し訳ない・・!!
そして・・頼りにしてるぜ赤坂さん!

「それじゃあ行きましょうか・・!!鬼を退治して人質を助けだしますよ!!」
「行きましょう。大石さん・・!」
「心強いぜ・・!よーし・・暴れてやるぜ・・!!」



俺達を乗せた大石さんの車は、俺がさっき詩音といたところへ向かっていった。








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