「着いたよ。二人とも。」
村長さんに車で戦闘場所へ連れて行ってもらった俺達。・・・どうやらついたようだ。
・・・しかし・・五月蝿い・・・。

「・・・う・・。車の中にいても外の音が聞こえてきますね・・・・。」
「そりゃ、私達も必死だからね。これくらいはするさ。」
「・・これがダム戦争なんだよ。圭ちゃん。流血沙汰も当たり前だから、バット・・有効に使ってよ。」
「・・流血沙汰ねぇ・・。」

本当に何の変哲もないバットだが・・たのもしく見えるぜ・・まったく・・。


俺は車の窓から外の風景を見る。人が群がり、建物を囲っている。
「・・ここってあのゴミ山だよな・・・。・・・五年も経つと人がよりつかない場所になっちまうなんてな・・。」

「・・・うるせっ・・。」
車の外に出ると、よりいっそう五月蝿くなった。
「・・こりゃ・・中にいる人は大変だな・・・。」

「圭ちゃん!圭ちゃん!!」
「おぅっ・・。悪りぃ!!何だ!!??」
何気ない会話なのだが・・大声で言わないと聞こえない。・・このあたりに人が住んでなくてよかったなぁ・・。
もし民家があったらとんだ迷惑だぜ。
「これを耳につけて!!」
「分かった!!」
何か魅音に渡された。・・・これは・・イヤホン・・みたいだな・・。こっちはマイクか?

「圭ちゃん。聞こえる?」
「お・・・?おお・・!また便利なものがあるんだな。」
どうやらマイクが拾った音をイヤホンに届けるみたいだな。どうゆう仕掛けなのか分からないが、周りの騒音は拾わない。
・・・不思議だ・・・。

「さて、前原君。」
村長さんも同じものをつけていた。お互いの声がよく聞こえる。
「はい・・。何ですか?」
「まず、今回君に頼みたい事を言っておくよ。」
「どうぞ・・。」
「まず、工事現場の監督に話をもらえるようにしてもらいたい。」
「・・そんな事ですか・・?」
「ああ。頼めるかな?」
「・・・ちょっと方法を考えますんで・・・・。」


少し時間をもらい、ここの現場監督に話を聞いてもらうにはどうしたらいいか考えた。
「ん・・?村長さん。ここの現場監督は話も聞いてくれないんですか?」
「・・・。我々も何度か抗議をしようとしているのだが、相手側は聞く耳を持たん。・・それでも続けているが、村人達はもう我慢できないと殴りこもうとしているんだ。」
「・・・ふぅん・・。」
そうか・・。それなら・・・・・いける!!

「分かりました。何とか話を聞いてもらえるようにしてみましょう。」
「頼むよ。君だけが頼りなんだ。」


・・・よし・・。
相手は国だ・・。
生半可じゃ駄目だ。
やるなら・・徹底的に・・・!!!

「村長さん。拡声器貸してもらえませんか?ちょっとそれが必要になるので。」
「わかった。 使うといい。」

俺は村長さんから拡声器を受け取り、スイッチを入れる。 キーン・・と、拡声器特有のあの音がした。


スー・・・・


「だまれてめぇらあああああ!!!」



場が一気に静けさを取り戻した。 さっきまで騒いでいた奴らがこっちを見ている。
魅音や村長さんも例外ではない。
おそらく俺もこいつらと一緒に怒鳴り散らすのだろう・・とでも思っていたのだろう。

ん?・・・・一人・・こっちに来るな・・。
・・クールになれ。前原圭一。・・ここからが肝心だ・・!!!

「てめぇは何だ。」
「・・・何だ・・と言うと・・?」



バキッ


・・・・・・。
殴られたのか?頬がジンジンする。 おそらく真っ赤だろう。

「いきなり現れて黙れだと?俺達の邪魔をしようってのか?あ?」
・・。こいつは丸腰。・・・。俺の勝ちだな。
「邪魔をする?バカかあんた。」


バキッ


男はまた殴ってきた。 ・・・・。・・俺に痛みは無い。 金属バットで受け止めたからだ。

「・・・ってぇ・・!こ・・このガキ・・!!」
「自己防衛だ。 ・・・悪いかよ・・?」

後から魅音に聞いたのだが、この時の俺は眼が変化していた。普通の眼じゃなかったらしい。
おそらく朝に梨花ちゃんが見た眼だろう。

・・・それにしても・・体が軽いな。この状態だと身体能力が上がるのか?・・今も、普段の俺ならこんなことできない。
拳がこちらを殴ろうとしたら、受け止めるよりは逃げることを優先する。
この眼・・役に立ちそうだな。

そして俺はもう一度拡声器のスイッチを入れ、叫んだ。


「いいかてめぇら!こんなところで怒鳴り散らしたって

何も変わりはしない!!」



「・・なんだと・・!!!」
また男が殴りかかってきた。・・・・。だが・・。

「無駄だ。」
俺は再びバットで受け止めた。
「グッ・・!」
「手を傷めるだけだ。・・黙って見ていろ。」

俺は男にそう言い、再び他の奴らに向かって言った。


「怒鳴れば怒鳴るほど相手側にストレスがたまるだけだ!!

そうなればイライラして、

そのイライラの発生源であるお前らを嫌うようになる!!

そんなんじゃ聞く耳持たなくなるのは当たり前だ!!」


俺の話を聞いていた奴らは、再び騒ぎ出した。
そうかもしれないな・・・と、俺と共感を持つ者。
ふざけるな・・・と怒鳴る者。
殴りかかってきた奴もいたが・・無意味だ。
俺は再び拡声器に口を近づけ、言った。

「自分の主張を言いたければ相手のことも考えろ!

聞いてもらえなきゃ前進しないんだ!!前進したけりゃ

聞く側のことも考ろ!!」



・・・・。 あたりがまた静けさを取り戻した。 もう騒ぐ者はいない。黙って自分の頭の中で「答え」を考えてるようだ。
魅音と村長さんも下を向いて考えている。
・・・スジは通っていると思うが。 少なくとも、間違ったことは言っていない。
そう思ってるのは俺だけなのかもしれないがな。

俺は前進した。
話を聞いてもらうために。 それが俺にまかされた依頼だからな。
ここにいるのはあくまで工事の監督だ。
国が相手なのだから、監督に何を言っても国には届かないだろう。 ならば・・・まずは「心」に届ける・・!!


「ここを開けてくれ!! 話がしたい!」


扉を叩き、中に聞こえるように大きな声で言った。
中で何か言っているな・・。 おおかた、どうするか話し込んでいるのだろう。・・まぁ、入れてくれないなら無理にでも入るまでだがな。
俺はバットを強く握り締め、返事を待った。


一方中では・・・。



「・・って言ってますが・・どうします?」
「・・いいだろう。こいつらを黙らせてくれたんだ。話くらいは聞いてやろうじゃないか。」
「それも・・そうですね。 一応、感謝の対象には入りますからね。」


「どうぞ。通って下さい。」

「お?扉を叩き割って入ろうかな〜・・とか思ってたけど・・必要なくてよかったよかった。」
「ははは・・。」
出迎えた奴は苦笑いをした。 バットを見て、そして雛見沢の住人ならありうるからだろう。
「村長さん。こいつを預かっていて下さい。」
俺は村長さんにバットを手渡した。


「圭ちゃん・・持って行かないの?」
「ああ。話を聞いてくれるって言ってるんだから、必要ないだろ?
 尤も、返事がNOの時はこいつで扉を叩き割ってやろうと思ったけどね。 まぁ、扉を叩き割って行くにしろ、話をするのにこんなものは必要ない。
 相手が怖がって話を聞いてくれなくなるだけだ。」
「まぁ・・そうだけど・・。」
「拡声器も返します。 ありがとうございました。」

「・・さすが・・だね。 今まで話を聞いてくれなかった連中をよく動かせたものだ。」

「口先じゃ負けませんよ。 相手の心を読むのが大切ですからね。
 さっきも言いましたが、この建物の中の連中はそうとうストレスをためこんでます。
 だから回りの奴らを黙らせれば、話くらいは聞いてくれると思ったんです。」


「・・・・・・。 ・・なるほど・・。脱帽・・だね・・。」
「圭ちゃん。 ・・私も行く。」
「・・ああ。心強いぜ!」
「私も行こうか?」
「いえ。子供だけの方が話を聞いてくれると思うんです。
 それに人数を増やせば増やすほど、相手は「しまった」とか思って話を聞かなくなりますからね。」
「ふむ・・。それもそうだな。」
「それに、話を聞いてくれない・・って事は、相手は魅音のことを知ってはいても、顔は知らない。御三家も同席した方がいいと思うんです。」

「よし分かった!それじゃあ、・・頼んだよ!圭一君!」


「行くぞ。魅音。」

「うん。」


「どうぞ。こちらへ。」


クールになれ・・。もっともっとクールになるんだ!!

シミュレーションだ・・。イメージトレーニングを今のうちにしておけ・・!!

第一段階は・・。 ・・よし・・。
第二段階・・・。 ・・よし・・。
最後は・・・・。 ・・よし・・。

感情をこめるのはここぞという時だけ。
あらゆる事に冷静に対処するんだ・・!! 流れをこちらのものにするんだ!


俺達は奥の部屋へ通された。


・・・そして同時に、俺の戦いも始まった。


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