「圭一くーん!ご飯ができたから梨花を呼んでくれないかしらー?」
「はーい!」

時間は夕食時。あたりも静かな闇を迎え、ひぐらし達も合唱をやめていた。
そんな中、古手神社の境内に響いた二つの声。 夕飯が出来たようなので、俺は梨花ちゃんを探した。
「えーと・・梨花ちゃん、メシ・・ ・・・あれ?」
梨花ちゃんの部屋に向かったが、そこに梨花ちゃんはいなかった。辺りはもう暗いし・・外に出たとも考えにくい・・。
となると、梨花ちゃんはどっかにいるはずだが・・。
「どこにいるんだー?おーい!梨花ちゃーん!」
呼んではみたものの、返事は無い。この家、結構広いのでかくれんぼなんかにはもってこいの家なんだよなぁ・・。
余計なことを考えながら俺は梨花ちゃんを探した。
「うーん・・いないなぁ・・。一体どこにいるんだ?せっかくの夕食が冷めちまうぜ・・。」
闇雲に探しても見つからないと思い、俺は梨花ちゃんがどこにいるのか考えてみた。・・すると、結構簡単に答えが出た。
「俺が・・いつも寝ている部屋・・・か・・・?」


俺がいつも寝ている部屋は、この家のはなれにあるので普段は使わないらしい。
つまり、空き部屋だ。
俺はそこで寝かしてもらっている。
その部屋に行くには、靴を履いて外を通らなければいけないので、俺も寝るとき意外はあまり行かない部屋だ。
つまり、何か見られたくないことでもしているって事だ。
ふふふ・・・・・何をしているのかねぇ?




靴を履き、部屋へ向かった。どうせだから驚かせてやろうと思い、そろりそろりと足音を忍ばせて近づいた。

「・・・・・よ。・・・・入。」

「お・・・やっぱりこの部屋にいたのか。ビンゴだぜ・・!」


俺は声を小さくしてそう言い、さらに足音を忍ばせて近づいた。


「今回はいつもと違うわ。」



「・・・・?・・・いつもと・・違う・・? ・・今回・・?」

聞こえてきた声に俺は足を止めた。


「・・ええ。祭りの終わりは・・惨劇の始まり。」
「・・!?」

な・・何だって・・?祭りの終わりは・・惨劇の・・始まり・・?ど・・どういう事だ・・?

「ええ。そうよ・・。前に一度あったわね。 ・・・祟りは・・起こるわ。」
「!?」

・・・・オヤシロ様の・・たた・・り・・。

ドクン
ドクン


「・・・ぐっ・・!!」

お・・落ち着け・・!冷静になれ・・!
「圭一。」
「―――――――!!!」
「・・・・。」

梨花ちゃんが・・扉を開けて・・こっちを見てる・・。 ・・いや・・こいつは・・梨花ちゃんなのか・・?
あのしゃべり方は・・普段の梨花ちゃんのしゃべり方じゃない・・。
そうだ・・俺だってもう一人いたじゃないか・・・。この梨花ちゃんは・・本物なのか・・?

俺の思考回路は目の前の、いつも見ているはずだった梨花ちゃん一色に染まった。
目の前にいるのは梨花ちゃんだ。それは間違いない。 ・・だけど・・そいつが本人なのかどうか・・俺は・・そんな事を疑ってしまった。
その時。
梨花ちゃん一色だった俺の脳内に
もう一つの‘色’が現れた。

「あ・・あいつは・・!」

あいつがいた。
前に一度・・俺の‘眼’が初めて変化したときに・・俺を・・見つめていた奴だ。

「り・・梨花ちゃん・・。」
「・・なぁに? ・・クスクス・・
「・・・。 ・・あいつ・・何者なんだ・・?」
俺は指をさしてそう言った。あの時突然消えてしまったあいつが何者なのか・・知りたかったからだ。
「 !? 」

‘あいつ’と梨花ちゃんが驚いた顔を見せる。 何でだ・・?

「圭一。 ・・羽入が見えるの?」
「・・羽入・・っていうのか?・・ああ。 見えるぜ・・。」
「・・前とは・・やっぱり違いがあるみたいね・・。面白いわ・・。」
「何のことだ?前って・・。」
「いいえ。こっちの話。・・・圭一。あなた・・その眼・・。」
「・・ん?ああ・・またなってたのか・・。」
「その眼ね。」
「・・え?」
「今、羽入が見えるのはきっとその‘眼’のおかげ・・。この前‘消えた’って言ってたけど・・。
 たぶん、‘見えなくなった’だけなのよ。・・普通の人に羽入は見えないから。」
「・・へぇ・・。この眼が・・ねぇ・・。」
「あの・・圭一。」
「・・なんだ?」
「・・!通じているのです・・!う・・うれしいのですよ・・!!」
「うわっと!?な・・何で泣くんだよ・・?」
「新しい話相手が出来て・・うれしいのよ。この子・・寂しがりやだから。」
「そ・・そうなのか? ・・・・あー・・ほら!何か話したいことでもあったら、話でも何でもしてやるから、もう泣くなよ。・・な?」
「あぅあぅ・・・・ご・・ごめんなさい・・なのですよ・・。」
「・・何だか梨花ちゃんの話し方とそっくりだな。」
「みー。ボクがどうかしたのですか?」
「え・・?あ・・あれ・・?・・梨花・・ちゃんか?」
「みー。圭一が変なのです。」
「うーん・・まぁ、変っちゃ変なのかもな・・。あ・・!そうだ!梨花ちゃん、ご飯できたってさ!行こうぜ!」
「みぃ!ご飯なのです!」


・・・。
羽入って娘が見えなくなった・・。
この眼って・・時々勝手に出てきて勝手に元に戻ってるな・・。

・・・・。

「圭一!はやく行くのですよ!」
「お・・おう!悪い!」

俺と梨花ちゃんは食卓へと向かった。そういえばずいぶん時間が経ってるな・・もう冷えてるかなぁ・・。
・・・羽入は腹減らないのかな・・?
・・・・。
・・・・まぁ、・・いいか。


「もう!二人ともどこ行ってたの?ご飯、すっかり冷えちゃったわよ。」
「ご・・ごめんなさい・・。」
「ごめんなさいなのです・・。」
「レンジで暖めなおしておいたから、早く食べなさい。」
「「はーい! いただきまーす!」」

「かあさん!綿流しも近いから、ちょっと鍬を出してくるよ。後で練習しとくといいよ。」
「あらそう?ありがとうね。おとうさん。」
「みー。母様の晴れ舞台が近いのですよ。」
「綿流しのお祭りかぁ・・。 そういや・・あの時だったな・・。」

昭和58年。夏。
綿流し祭の時に俺は祭具殿の中に引きずり込まれ、気がついたらここにいた。
何で俺は時を遡ったんだ・・?
奇跡・・と言ってしまえばそれまでなんだが・・。
何か理由がある気がするんだが・・・。

「なあ、梨花ちゃん。」
「みぃ?何ですか?」
「俺が・・ここに来た理由なんだけどさ。何か・・分からないか?」
「みぃ・・。理由・・ですか・・。」
「そうだ。ささいな事でもいいんだ。」
「そういえば・・。」
「何かあるのか!?」
「みぃ。ボクが圭一を見つけた前日、その日は大雨だったのです。雷もなっていたのですよ。
 そして・・祭具殿に・・雷が落ちたのです。」
「・・・え・・・?」
「間違いないのですよ。ピカっと光ったと思うと、ものすごい音が近くでしたのです。すぐに外を見ると、祭具殿から煙が
 出ていたのです。危ないから近づいたらいけないと言われて近づかなかったのですが・・。」
「祭具殿に・・雷が・・?」
「みぃ。そして中の物が大丈夫かを調べるためにカギを開けてみると、中に圭一がいたのです。
 不思議なことに、祭具殿の中のものは全て無事、建物事態も損害は無かったのです。」
「な・・何だって・・?雷が落ちたのに・・建物の中、外で壊れたところが無かったのか!?」
「みぃ。そうなのです。・・・あと、その時羽入が変だったのです。」
「羽入が・・?」
「窓の外、祭具殿のほうをじっと見つめて、ボクが何を言っても返事もなければ動きもしなかったのです。
 キムチを食べても何ともなかったのですよ。」
「あのあぅあぅ言ってる羽入が・・。」

何だ・・?
一体何があったんだ?
雷が落ちても無事な祭具殿・・。その祭具殿をじっと見つめていた羽入・・。
訳が分からないぞ畜生・・。

グー・・・。

・・・・・。

腹が減っては戦は出来ぬ・・だ!とりあえずまた冷えちまう前に夕食を食うか!




「「 ごちそうさまでした!なのですよ 」」
食った食った。今日の料理もうまかったぜ。
「おそまつさまでした。 圭一君、お風呂沸いてるから入っちゃいなさい。」
「え・・でも・・一番風呂もらっちゃっていいんですか?」
「気にしないでいいわよ。あなたも家族の一員なんですから。」
「・・ ありがとうございます・・!」


よし。じゃあさっさと風呂に入るかな。


「ぷは〜♪ いやー ・・ 疲れがとれるぜ・・。」

今日は色々あったもんなぁ。 梨花ちゃんとお散歩に行ったら赤坂さんと出会ってそのまま自然ウォッチングになっちゃったもんなぁ。
色々あったが・・まぁ、いい一日だったな。
「・・そういえば赤坂さんが調べてることって何だろう・・。」
警察が秘密裏に調べている事。
よほどの事なのだろう。

・・・。
「深く考えるのは・・やめるか・・。」
なにせ秘密にされてるような事だもんなぁ・・。
今は疲れを取るのに集中しよう・・。

「明日は・・市・・だな。 次は県。最後に・・国・・。」

まったく、俺も大それた事をしようとしてるなぁ。
雛見沢が仲間についてるからといって、国を相手に喧嘩を売るんだからな。
英雄なんて呼ばれてたけど・・俺には荷が重すぎるぜ・・まったく・・・。



「あがりましたー!」
「はーい。 それじゃあ梨花。入ろっか!」
「みぃ。お風呂なのです。」


さーて・・俺は寝るとしますかな・・。
「圭一君。 ・・・ちょっと話があるんだけど・・いいかい?」
「・・? はい。 いいですよ。」

「みぃ?圭一と父様はお話ですか?」
「ちょっと圭一君とお話をしてくるよ。梨花はお風呂に入っといで。」
「みぃー。分かりました。」


*     *      *


お父さんと圭一が話をするらしい。
どんな話なのか気になったが、お母さんに呼ばれたのでとりあえず私は風呂に向かった。

「どう?今日のお散歩、楽しかった?」
「みぃ♪ とても楽しかったのです。」
「へぇ〜 どんなことがあったの?教えて?」
「いいのですよ。まず、温泉饅頭に会ったのですよ。」
「温泉饅頭?」
「みぃ☆」

お母さんは頭に「?」マークをいくつも出してこっちを見ていた。
ふふ。我がお母さんながらかわいいわ。
「みぃ。雛見沢へ観光に来た若者と出会ったのですよ。圭一とも親しそうに話していたのです。」
「圭一君の知り合いなの?」
「圭一が工事現場に突入した時に会ったと言っていましたです。」
「圭一君も本当にすごいわよねー。あっという間にダム工事の監督を説き伏せちゃったんでしょ?」
「みぃ。圭一はすごいのです。」
「そうね。 彼が言うと本当に雛見沢を救ってくれるような気がするわね。私達も今まで何もしなかったけど・・
 少しは反対運動に参加してみようかしら。」
「みぃ♪それがいいのです。」
「この子ったら。」
アハハハハ!

私とお母さんの声でお風呂場が満たされた。 母さんが笑顔を見せてくれたのも・・圭一が来てからだ。
ありがとう・・。圭一・・。


「みぃ☆ いい湯だったのです♪」
「じゃ、寝ましょうか。」
「みぃ・・。眠くなってきたのです・・。」

私は布団を敷いて、中に入り、まどろんでいった・・。







チチチ・・・・・



「う〜んっ・・・。」
小鳥のさえずりと一緒に私は目を覚ました。
「さわやかな朝ね。」
お母さんはいない。たぶん朝ごはんを作っているのだろう。


「り・・梨花ー!!梨花ー!!」
「・・・うるさいわね。何よ羽入。」
「た・・大変なのですよ!!」
「いいから落ち着きなさい。何があったの?」
「け・・圭一が・・圭一がいないのです!!」
「・・な・・何ですって!?どういう事!?」
「朝、お庭を圭一が掃除していなかったのですっ!それで、圭一の部屋に行ってみたらそこにも居なかったのですよ!」
「た・・大変だわ・・!こんなの・・なかったわよ!?」
「探すのです!梨花!」
「分かったわ!」



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