昭和53年、夏。
 犬飼大臣の孫が誘拐される事件が発生。
 事件の解決に、赤坂衛(当時2X歳)が選ばれ、雛見沢と向かう。
 その後興宮署の大石と合流。犬飼寿樹は無事救出された。

 この事件をきっかけに、赤坂衛の評判は上層部の中で跳ね上がる。
 その後彼は、家族円満、仕事もよくこなし、輝かしい人生を歩んでいく。


 …………そして、平成二年現在。
 彼は、警視庁捜査一課の一員として、一人の人物を推奨した。


    *            *


「あ〜っ! 赤坂さん、そりゃないっすよ〜〜!!」
「まだまだ甘いね、日津谷。ほら、これで私の勝ちだ!」
「…んぐぐぐぐ…! 負けた……!!」

 夏もいよいよ暑くなってくるという、六月の昼下がり。
 赤坂とその部下である日津谷直樹(ひつがやなおき)は、東京の警視庁の一室で、トランプを使って遊んでいた。
 赤坂は暇さえあれば、こんな風に部下を誘ってカードゲームや麻雀等を使って遊んでいる。
 しかし、ひとたび仕事となれば人が変わったかのように冷静な一面を見せ、いくつもの事件を解決してきたエリート刑事だ。
 普段は明るく、仕事は真面目にこなす。
 そんな赤坂は人望が厚く、上からの評判も変わらず良いのだ。

 その赤坂がぜひにと上層部に伝えた人材が、今日…ここに来るのだ。
 赤坂を中心とするこの調査一家の人物は、どんな奴が来るのかという話で持ちきりなわけだが、赤坂は普段と変わらないようだった。

「でも赤坂さん、一体どんな人が来るんですか?」
 先ほどボロ負けした日津谷もやはり気になるようで、赤坂に尋ねる。
「ん? あぁ、そうだね」

 コン、コン。

 …噂をすれば、何とやら。
 室内に、ノックが響いた。
 …そう…。ついに、来たのだ。

「どうぞ」
「…失礼します…」

 ドアががちゃりと開けられ、その正体があらわになる。
 それは、とても若く、いかにもエリートだと言わんばかりの容姿をしていた。
 背広をきっちりと着こなしているその青年は、なるべく第一印象で変に見られたくなかったのだろう、声高らかに言った。

「今日から皆さんと共に仕事をする事になりました。…前原圭一です。よろしくお願いします!!」
 前原圭一と名乗るその男は、静まり返った室内を見て冷や汗を流す。
 (……やばい、まずったか。)
 圭一がそう思い焦りを感じ始めた時、…赤坂の声が静かに響いた。
「前原圭一。…彼は――交渉のスペシャリストだよ」

 


      交渉人 前原圭一

 


「やぁ、圭一君。今日から同じ課だね。よろしく頼むよ」
「そ…そんな…。『君』なんてよしてください。あなたは上司で、俺は部下なんですよ?」
「そんな事は気にする必要はないよ。少なくともここではね。さぁ皆、自己紹介といこう!」

 赤坂は相手が誰であろうと気さくに話す事の出来る、そんな人だった。
 だから、相手が新米刑事でも、いつもの調子で事を進めてしまうのだ。

 赤坂に言われるままに、一人、また一人。
 圭一に自己紹介をしていく。
「よろしく。期待してるよ」
「は……はいっ!」

「あとは日津谷だけだな」
 残るは日津谷一人。他の皆は自己紹介を終えた。
 日津谷は圭一の前まで歩いていく。
「日津谷直樹です。よろしく頼むよ」
「前原圭一です。まだまだ新米ですが、よろしくお願いします!」
「よしよし。二人とも私の直属の部下だから、仲良くやってくれよ?」
「分かってますよ」

 日津谷は苦笑いをしながら答えた。
 今まで自分が居た場所に、今年警察に入ったばかりの人間がズカズカと入ってきたのだ。
 
 日津谷という男は、自分が赤坂の直属の部下だという事に誇りをもっていた。
 あの有名な赤坂衛の部下なのだと、それだけで彼の自信は奮い立ち、赤坂の片腕として、二十七歳という若さながら優秀な成績を残しているのだ。
 彼の階級は警部補。下から三番目だが、ここにたどり着くのも日津谷の年齢を考えると難しい。
 ちなみに、赤坂も警視正という、年齢に不相応な地位についていた。
 
 警察の階級は、上から警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査長、巡査というようになっている。
 赤坂はその中で四番目。上から数えた方が早いのだ。
 
 徹甲弾と言われ、まさに一騎当千の強さでここまで上り詰めた彼には、この地位でさえ不相応だ、という者もいるほどだ。
 まぁ、当の本人はそんな事は気にしていないようなので、若さに不相応な地位に居ても、下位の階級に居る者に威張るでもなければ普通に接している。
 よって文句を言う者も居ないようだが。

 階級を気にしない彼にとって、階級を上げるための試験なんてどうでもいいのだが、低い階級であると理不尽な指示に従わなければならない事もあり、
 意地と根性で上り詰めたのだ。
 日津谷も赤坂の部下であったから階級を気にする必要もあまり無いのだが、
 赤坂とは違い、彼は自分の実力を試す、いわば腕試しの場として試験を受け、ここまで上り詰めた。
 二人とも一般的な試験を受ける心構えとはかけ離れていたため、気が合い、相性も抜群に良かった。

「しかし、圭一君も随分と成長したね。最後に会ったのは六、七年くらい前だったかな?」
「…ええ。…まぁ、今となってはいい思い出ですよ」
 突然始まったこの会話に、日津谷を始めとする室内に居る者達は皆頭上に「?」マークを浮かべた。
 彼らは知らなかったのだ。
 
 昭和58年、赤坂は大臣の孫誘拐事件で一度訪れた雛見沢に再び足を運んだ。
 その年はとても暑い夏だった。
 そんな異常気象の中で体験した、思い出せば思い出すほど非現実的な物語。
 古手梨花を巡る、山狗との攻防。
 圧倒的に赤坂は不利な立場で戦ったに違いなかった。
 しかし、彼らは打ち勝ったのだ。

 雛見沢から興宮まで牛耳る、園崎家次期頭首の園崎魅音を中心に、統率された動きを見て、あからかじめ仕掛けてあったトラップをたくみに使い山狗をばっさばっさと打ち倒した圭一達部活メンバー。
 赤坂は別行動を取り、入江診療所を襲撃。
 敵の本部をおさえに行ったのだ。
 作戦は成功し、結果的に死傷者は無し。ただ、重傷者はかなりの数となった。
 それでも、この経験を誇らしげに思った圭一は、この事件以来、警察官になりたいという夢を持ったのだ。
 圭一が東京に居るには、こんないきさつがあった。
 
「でも、よかったんでしょうか……。まだ二十二だってのに、警部補なんて地位もらっちゃって……」
「…何!?」
 ボソリと圭一が漏らしたこの言葉に、日津谷はいち早く反応した。
「お前が……警部補!? そんな馬鹿な!!」
 試験を実際に受けていたからこそ、日津谷には分かる。
 警部補と言えど、そう簡単になれるものではないのだ。
「…俺が警部補じゃ納得がいきませんか?」
 圭一としても日津谷の言動にムッと来たらしく、めずらしく怒りをあらわにしていた。
「ああいかないね! まだ二十二歳だってのに警部補だと!? しかも赤坂さんの直属の部下!? ふざけるな!!」
「それはお互い様でしょう」
 確かに、年齢的にも現在の環境にもたいした差は無い。
 だが、それだけに腹が立っているのだ。

 スピード出世とは言え、日津谷は数々の功績を立てた上で試験に臨み、この地位まで二十七歳という若さで上ってきた。
 だが、この男はどうだ。警察官になっていきなり警部補になり、しかも自分より五つ年下なのだ。
 日津谷は腹を立てずにはいられなかった。

「大体なんでお前のような警察官になりたての奴が警部補なんだよ!!」
 日津谷の言葉に、圭一はすぐさま言葉で返した。
「知らないんですか? 国家公務員I種試験の合格者から将来の幹部候補生として警察庁が採用した人達は警部補からスタートできるんですよ?」
 この反撃に、日津谷は思わず口ごもる。
 ノンキャリアで上り詰めた彼は、そんな事は知らなかった。
「…ぐ…ぅ。し…知っとるわい!!」
「それであんな事言ったんですか?」
「…………!!」
 あえて勝敗をつけるのならば、完全に圭一の勝ちだ。
 圭一は、自らが通ってきた道が茨の道であり、それをようやく潜り抜けて手に入れた警部補という階級に誇りを持っていた。
 日津谷が赤坂の部下として誇りを持っているように、彼にもそれがあった。
 それを罵倒されたのだ。怒らないはずがない。
「二人ともやめなさい」
 言葉に詰まった日津谷と、それを見てますます優越感に浸っている圭一に、赤坂が言葉を挟んだ。
「…赤坂さん…」
「圭一君。日津谷は君の先輩だ。言葉は選んでくれ」
「…………」
「それから日津谷」
 圭一に一言かけた赤坂は、今度は日津谷の方を向く。
 何を言われるのか、何と返そうかと慌てていると、
「……お前は凄いな……」
「………は………?」
 予想していた言葉とまったく違う赤坂の言動に、日津谷は思わず間抜けな声を漏らした。
「言ったろ? 彼は交渉のスペシャリストだ。口ゲンカなんて、負けに行くようなものなのに、よく行動に移せたな。実際、私でも口先では彼に勝てないんだ」
「えぇ……!? マ…マジっすか!?」
「それと、前に話した大石さん知ってるよな? 彼は大石さんから柔道業を習っていたようだから、ケンカも強い」
「………………」

 圭一は、大石が定年を迎えるまでずっと柔道を習っていた。
 六月の事件後、圭一が自分の夢を大石に熱く、それはそれは熱く語ったところ、「それなら最低でも自分の身は守れませんとねぇ〜?」という具合で柔道を習うことになったという。
 
 高校に入ってからは、魅音、レナと新入部員を含めた部活でタフさを身につけ、大石から教わった柔術にも毎日磨きをかけていたという。
 言うならば、前原圭一は雛見沢と興宮の独特の環境が創り上げた、エリート刑事だったのだ。

 圭一はもともと頭もよかったので、筆記試験に苦労する事はなかった。
 それでも勉学に励み、夢を実現させるまでの努力を怠らなかった。
 赤坂は、今年のキャリアを持って警察官として就職する新米のリストの中に前原圭一という名前を見つけ、
 ぜひ自分の部下にしてくれと申請した。
 上層部には優秀な新米と優秀な警視正を一緒にする事に反対する理由もなく、あっさりと首を縦に振った。
 ……と、ここまでが前原圭一の歩んできた道だ。

「腕も立つし口も達者。彼を見てると、昔の私を見ているみたいでね」
「………………」
「仕事もきっちりこなすようだけど、時々熱くなって暴走する事もあるらしいから、その時は頼むよ。私じゃ無傷では止められそうにないからね」

 …いや。殴っても止まらないだろうと勝手に想像を広げる日津谷だが、赤坂は自分に彼の暴走を止めるように言った。
 「自分は止めるのが無理」と言った上でだ。
 それは、赤坂が日津谷を信頼していることに他ならなかった。
 これにより、日津谷は一気に機嫌を戻した。

「分かりました。まかせてください」
「よし、まかせた!」

 二人で肩を組んで一体何を話しているのだろうと、気になっていた圭一も、
 突然笑顔になってこちらに振り向いた日津谷に悪寒を感じ、深く考えない事にした。

「圭一君。さっきはすまなかった」
「……いえ。俺も熱くなってました。…………すいません」
「こちらも同じだ。すまなかったね。…よろしく頼む」
「……はい!」

 日津谷の態度に、圭一の表情も明るくなった。
 ちなみに、周りに居た人間は関わりたくなかったのか、黙っていきさつを見守っていた。

「よし! じゃあ二人とも!!」
 赤坂は声をより一層張り上げ、圭一と日津谷の肩を叩いた。
「トランプをしよう!!!」
 何を言うのかと思いきや、相変わらずの赤坂に室内は笑いに包まれる。
 ……だが。…華やかな笑いが止まらない中、一人だけ明らかに種類の違う笑いをしている者が居た。
「……クックックック…! 俺にトランプで勝負ですか……!!」
 前原圭一である。
「腕はまだまだなまっちゃいないだろう?」
「当然ですよ!! 二年のブランクがあるとは言え、負ける気はさらさらありませんからねぇ!!」
「うんうん。そうこなくっちゃ」
 いつの間にか、圭一からは妙なオーラがあふれ出ていた。
 それは周りを全て包み込み、今にも押しつぶさんと叫んでいるようだ。
「目指すは一位のみ!! それ以外はビリと同じだ!!!!」
 赤坂に対して慣れなれしいのでは、と思う人が続出したが、そんな事は気にしないのが赤坂だ。
 二人からあふれるこの変なオーラは室内を包み込み、一同を不安に駆り立てるのだった。

 この二人を見て、日津谷は唐突に思う。
 ……これは……とんでもない奴が来てしまったと……!!

「種目は何ですか!? ババ抜き七並べポーカーブラックジャック!! 何でも来い!!!」
「よしよし。ここは日津谷君に決めてもらうとしようじゃないか。我々のバトルはレベルが高いからね」
「ええ!? 僕が決めるんですか!?」
「さぁ何にします!? 俺は絶対に負けませんよ!!??」
 ……なるほど、暴走とはおそらくこの事を言うのだと日津谷は理解する。
 しかも赤坂まで便乗して、相当タチが悪い。
 日津谷がどうしたものかと悩んでいると、捜査一課に一本の電話がかかってきた。
 さっきまで声を張り上げていた二人も、これには黙って受話器を見入った。
 そして、一番近くに居たものが、それを取る。
 しばらく何かの会話を続けた後、受話器が置かれた。
「何だって?」
 すぐに赤坂が聞く。
 もうその表情にはさっきまでのお茶らけた雰囲気は感じ取れない。
 圭一も同じように気を引き締めている。
 赤坂はともかく、圭一の豹変ぶりに多少驚いたが、負けじと日津谷も気を引き締めた。

「赤坂さんに呼び出しです。……警視総監から……!!」
「…何だって…!?」

 警視総監から直々の呼び出し。
 これはただ事ではないと、この場に居た誰もがそう思った。
 赤坂はイスにかけていた自分の背広を急いで身につけ、足早に部屋を出て行った。
 圭一もそれに続こうとするが、
「圭一君」
 日津谷は圭一を呼び止め、首を横に振る。
 それを見て、圭一も意味を理解し、足を止めた。
 警視総監が呼び出したのは警視正である赤坂衛だ。
 前原圭一の名ではない。
 ……今は、待つしかないのだ。

     

     *      *

 

 しばらく時間が経ったが、それでも張り詰めた空気が漂う捜査一課の一室。
 誰もが何も言えないまま、時間だけがただ過ぎていく。
 だが、その空気はバタバタという足音にかき消された。
「皆!!」
 赤坂が息を荒げながら飛び込んできた。
 その様子から、何かよくない知らせを持ってきたのは明白だ。
「何があったんですか?」
 そんな赤坂に、圭一がまっさきに声をかけた。
 赤坂も落ち着いた圭一の様子を見て、息を整えて……言う。
「皆、よく聞いてくれ。どうやら……警視庁に…爆弾がセットされたようなんだ…!」
「「「「――――――!!!?」」」」
「……な……馬鹿な……!?」
「先ほど、警視総監室の電話に犯人からメッセージがあったようなんだ」
 日津谷は赤坂の言葉を、そして、自らの耳を疑った。
 警視庁に爆弾がセットされた。…そんな事があっていいのかと、誰もがそう思う。
 ここは仮にも東京にある警察の本部だ。そんな場所にセットされるなんて、警備の者は一体何をしているんだと皆が口々に言う。
「上からの命令は、セットされた爆弾の解除だ。被害は最小限に食い止めよ、との事だ」
「…最小限?」
「警備が甘くなっていたのには自分にも責任があると嘆いていたよ」
「…………それで、最小限……ね」

 …さて、ここでまず誰もが思いつく事がある。
 …………それは……。
「あの、イタズラって事は……」
 
ドォオオオン!!!

「――――っ!!?」
 その瞬間、すさまじい爆発音がした。
 圭一はすぐに窓まで駆け寄り、どこが爆破されたのかを確認した。
「……西エントランスホールがやられたみたいですね」
「…何!? じゃ……じゃあ……」
「間違いなく死傷者が出ています。これはイタズラなんかじゃない。イカレ野郎の爆弾を使った殺人劇だ……!!」

 この警視庁には西、東、中央の三つのエントランスホールがある。
 そこはこの建物の出入り口となっていて、人が集まるところでもあるのだ。
 これにより、最低でも二十人は犠牲になったと考えていい。

「赤坂さん!! 警視長クラスの人間を全てあらってください!! その中でも、警察に恨みを持っていそうな人物を!!」
 
 部屋に居た者はあ然とした。
 この異常事態で誰もが動揺を隠せない中、圭一だけが冷静に、しかも赤坂に指示を出していたのだ。

「俺ではあまり自由に動けません!! これは赤坂さんにしか出来ないんだ!!! 早く!!」
「ああ! 分かった!! 日津谷、ついて来い!!」
「は……はい!!」

 赤坂は迷う事なく指示に従う。
 本来は立場上逆なのだが、そのあたりを気にしていない赤坂だからこその、迅速な行動だった。
 だが、そんな二人の足を、再びかかってきた電話が止めた。

 状況から察するに、おそらくこの電話は犯人からのもの。
 赤坂に任せられた事件だから、電話の回線をこちらに回したのだろう。
 ひたすらコールする電話の前で、圭一はパキパキと指を鳴らす。
「……俺の出番だな……」
 交渉人、前原圭一。
 ここで役柄を勤めずして、いつ勤めると言うのか。
 圭一は意気込んで、受話器を取った。
 それと同時に、赤坂、日津谷も再び行動を開始する。
 圭一は犯人との交渉。赤坂、日津谷は該当者の検索。
 さらに、残りの者も赤坂達についていく。
 ここに居て黙っているより、赤坂を追いかけて検索の手伝いをした方がいいと皆判断したのだ。

 バタンとドアが閉まる。
 ……それと同時に、あたりは静まり返った。

 圭一は皆が出て行ったのを確認し、さらに気を引き締めた。
「……もしもし?」
「…あれ。声が違うね。……回線を変えた…ってところか……」
 明らかに機械を通したような、無機質な声が受話器の向こうから聞こえてきた。
 どうやら相手も馬鹿ではないようだ。
 別の人物が取ったというだけでなく、回線が変わっている事も一瞬で見抜いてきたのだから。
 圭一はまったく動じず、話を続ける。
「お前は誰だ? 何の用だ」
「周りの人間、皆出て行ったみたいだけど、一人で大丈夫なの?」
 どうやら、圭一の質問に答える気はさらさら無いようだった。
 電話の相手は無視してまったく関係の無い事を言い出す。
「ああ。その辺は心配しなくてもいいぜ?」
「よっぽど自信があるんだね」
「ま、おしゃべりの相手くらいなら俺にも出来るしな」
 
 圭一は考えていた。
 こいつからどうやって爆弾の場所、そして爆発方法を聞きだすかを。
 …まず、優先すべきは爆発方法。…いや、この際どちらでもいいのだが、出来れば爆発方法から聞きだせる事が好ましかった。
 時限式と起爆式では、対処の方法はまるで違う。
 総監からの命令は、「被害を最小限に食い止めろ。」だった。
 その被害というのが人命を指しているものだと圭一は信じ、対策を練り上げる。
 (起爆式なら皆を非難させる。時限式なら解体決行だ)
 やる事は決まっていた。
 だから、圭一は迷わない。
「…………よし…………」
 ここが圭一の腕の見せ所だ。
 言葉巧みに相手を操り、「言葉」という材料をそろえて推理する。
 口先の魔術師と言われた圭一の、初仕事。
 その内容は警視庁にセットされた爆弾の解除。
 常人であるならば、プレッシャーに押しつぶされていたかもしれない。
 ……だが、部活で鍛えられた精神は、これしきの事で息を乱すほどやわなものではなくなっていたのだ!!
「……単刀直入に言うよ。…お前の望みは何だ?」
 圭一は口を開き、犯人との「交渉」を開始する。
「……ゲームだよ」
「……あぁ……?」
「暇だったからね。爆弾を仕掛けてみたんだ」

 この言葉に圭一は激怒した。電話の向こうの相手に、何度も何度も何度も何度も罵声を浴びせた。
 ………………心の中で。
「随分と盛大な暇潰しだな」
 圭一は声色をまったく変えず、犯人の言葉に言葉で返した。
 
 相手のペースに乗ったら自分が呑みこまれる。
 結果、いいようにもてあそばれ、敗北するのだ。
 園崎魅音主催の部活で鍛えられた精神は、本能的にその事を知っていた。
 だから、怒らない。たとえ怒っても、声にだけは出さない。
 そう、本能が圭一をセーブさせ、あくまでも冷静に対処しているのだ。

「ふーん? 怒ってないんだ?」
「ん? 怒ってるよ? 当たり前じゃないか」
 圭一は無機質な声で返事をした。
 声にはまったく怒っているような様子は感じ取れない。
「……何かやな感じだな……。お前……」
「よく言われるね」
 圭一はスラスラと言葉を並べ、犯人の言動に速やかに返していく。
 ここで怒鳴り散らしたって笑われるだけ。
 そんな分かりきっている事を、わざわざ圭一からしてやる義務も必要も無い。
 
 なら、圭一が抱えている怒りはどこにぶつけられるのか?

 ……それも簡単。
 もちろん、この電話の向こうの相手だ。
 じわじわと、少しずつ。こいつに返していく。
 相手が自分のペースにこちらを引き込もうとしたら、相手の想定外の事をしてそれを乱してやる必要がある。
 相手は自分の思い通りに行かない事に苛立ちを覚え、呼吸を徐々に乱していく。
 そうなれば、必然的に流れは圭一の方へ傾くのだ……!
 これは、圭一が部活を通して、どんな競技にも通用するものだと確信してずっと使ってきた必勝法。
 それでも必ず勝てるとは限らないが、これによって確実に勝算は上がっていったのも事実だ。
 前原圭一という男は、「部活」を通して、様々な交渉術も身につけていた。
 彼を相手にした相手は何と気の毒な事か。
 どんな相手でも言葉巧みに自分のペースに引き込み、必ず勝利するのだ。
 こいつは、そんな圭一の……最初の獲物だった。

 圭一は続ける。

「で? そのゲームっていうのは何をするものなんだ?」
「…ん? 簡単だよ。僕が爆弾をセットする。それが爆発する。それだけ」
「…へぇ。そりゃ確かに簡単だ」

 圭一は確信した。…犯人はこの警視庁のすぐそばに居ると。
 この受話器の向こうの犯人が、爆弾をセットし、爆発させるためだけに危険なリスクを犯してまで警視庁に仕掛けたのだとしたら、それはただの馬鹿だ。
 (いや、こいつは間違いなく頭のイカレた野郎に変わりないが)
 仕掛けて、爆発させているのを楽しんでいるような奴なら、間違いなく近くでこの惨状を見ている……と。
 圭一は一瞬のうちにそう判断した。

 そしてこの犯人はさっきまで警視庁の内部に居たに違いない。
 爆弾をセットし、現場から離れ、爆発させる。
 そんな芸当が出来るのは、内部の人間。それも、相当地位の高い者に限られてくる。
 さらに、総監室の電話番号を知っている奴なんてそうは居ない。
 これによりさらに地位が高い者が犯人という事になり、圭一の推理はより信憑性を増していく。

 そうまでして得たこの「ゲーム」という舞台。もちろん、観覧者のつもりでいるのだろう。
 (近くで見ていて、ヘラヘラ笑っているに違いない。こいつはそういう奴だ。)
 さらに、この結論からパニックになっている人達を外に出す事は起爆を早めるだけだと判断し、起爆式であれ時限式であれ解体しか道は無いとも考えた。

 圭一はこの事を前提に、会話を続けた。

「でもさ、そりゃちょっとひどいぜ? お前だって、何も分からないまま死にたくはないだろ?」
「そんなの知らないね。突然爆発に巻き込まれて死んだ奴も、突然車にはねられて死んだ奴も、何も分からずに死んだのに変わりないんだよ? 頭、大丈夫か?」
「そうだな。今度病院に行ってみるか」
 あくまで圭一は声色を変えない。
 この忍耐力も、部活によって圭一は身につけた。
 すると、

「ふざけるな!!」

 受話器の向こうからいきなり怒声が飛んできた。
 これにはさすがの圭一も驚いたが、すぐに平常心を取り戻す。

「何がふざけてるんだ?」
「何が病院へ行くだ!! お前ふざけてるのか!?」
「何だよ。お前が頭大丈夫かって言ったんだぜ? 頭は人体で最も大切な部位だからな。心配して病院へ行くのは当然だと思うんだがな」
「ははははは!!! 行けるもんか!! お前はここで死ぬんだからなぁああ!!!!!」

ドォオオオン!!!

 犯人がそう言った直後、再び爆発が起きた。
 圭一はすぐに爆破場所を例の窓から確認する。

「……爆発したのは……西エントランスホールか……!!」

 圭一はちっと舌打ちをする。
 この爆発でも、間違いなく人は死んだ。
 それが何人なのか、今は分からない。
 ……だが、圭一はこれ以上の被害を抑えるために、話を続ける。

「俺は生きてるぜ?」
「バーカ。もうすぐ死ぬんだよ」
「ふーん? もうすぐ死ぬんだ?」
「……お前本っ当にやな奴だな!!!」
「おかげさまで」

 圭一は、やはり声色をまったく変える事なく話し続けた。
 そして、この会話の終了時しばらく沈黙し、……攻撃を開始する事を決意した。

「まぁ、嫌な奴って意味じゃ、お前もそうとうなものだぜ?」
「あぁ!? 死にてぇのか!?」
「俺は死ねーよ」
「バーカ。その気になればお前ら皆死ぬんだぜ?」
「皆? 皆って具体的にどれくらいなんだ?」
「はっ!! そこにいる奴全員に決まってるだろうが!!!」

 それを聞いた圭一は素早くポケベルを取り出し、片手で文章を作成、赤坂に送信した。
 『バクダンハチュウオウエントランス』。
 (これで事件は解決だ。あとは時間を稼ぐだけ……)
 時間を稼ぐ。…それだけで、この事件は解決する。一体どれほど稼がなければならないかは分からないが、とにかく、ゴールは近い。
 だが、圭一はもううんざりだった。
 せっかく夢だった警察官になれたと言うのに、初日から爆弾魔なんぞのイカレた思考に巻き込まれる事に。
 だが、ここでやめれば全てがパァだ。
 やる気のなさが圭一の脳からの電気信号をストップさせようとするが、何とかこらえて話を続けた。
「おぉう、怖い怖い。あんまり興奮すると身体によくないぜ?」
「お前に気遣われる事じゃないね」
「でも、さっきお前は俺の頭の心配をしてくれたしな。このくらいは心配してやってもいいだろう?」
 表向きはいいように返しているようだが、この言動は完全に相手をおちょくっていた。
 圭一も相手をするのが疲れたのだ。今までの怒り、疲れを、上手く言葉に混ぜて返している。
「余計なお世話だ」
 圭一は聞かれないようにため息をついた。
 まさか、最初からこんな嫌な役をしなければならないとは思わなかった。圭一にとって、予想外だ。
 交渉人としての仕事は、人質を盾に立てこもっている犯人の説得をイメージしていたのだ。
 説得なら得意中の得意な圭一だが、だだっこのお守りまでしろとは聞いていなかった。
 色んな意味で期待を裏切られた圭一は、すでにブチ切れる寸前まできていたのだ。
 
 さきほどの電気信号のように、何とか耐えているのだが、圭一自信、いつまで続くか分からなかった。
 声色はまったく変わってないが、表情は怒りに満ち、そこら辺に人がいたなら殴り飛ばしてしまいそうな、そんな表情をしていた。
 そんな異質な光景を見ている者は現在誰も居ない。
 そのことは、圭一にとっては不幸中の幸いだった。

 怒りに耐えながら、それでも声色は変えずに、圭一は続けた。
「なぁ、お前はどんな色が好きなんだ?」
「あぁ? 色?」
「もうすぐ俺は死ぬんだぜ? なら死んだ奴の名前は…まぁ教えてくれないだろうが、特徴ぐらいは知っておきたいんだ」
「…はっ、いいぜ。そうだな。俺は青が好きだな」
「……青ねぇ。奇遇だな。俺も青が好きだ」

 もちろん嘘っぱちだ。

「うれしくないね」
「まぁそれは俺も同じなんだけどな」
 これは本当。
「何か趣味とかあるのかよ?」
「趣味? ……ゲームをすることだな」
 ここで指すゲームとやらがすぐにこのイカレゲームなのだと圭一は理解する。
 こんな奴を野に放していいわけがないと、眉のしわをさらに深くして続けていく。
「ほう、ゲーム? 一体どんな?」
「お前、俺をなめてんのか」
「とんでもない。さっきも言ったが、俺はお前の特徴を知りたいだけだ。お前だって、俺の勝手な解釈で誤解されたままは嫌だろう」
「……へっ……。ゲームっつたら、今のこれに決まってるだろうがよ」
 やっぱりな、と圭一は心の中でつぶやく。
 あぁ、どうしてこんな阿呆が世の中には居るのだろう。
 幾度も嘆きの言葉を浮かべては、声に出てしまわないよう必死に留める圭一。
 さらにさらに、圭一は続けた。
「へぇ? いい趣味をお持ちで。……これで何度目なんだ?」
「五回目だ。爽快ったらありゃしねぇぜ〜!! お前もやってみたらどうだ!?」
 (嘘だな。口調に変化がありすぎだ。自分から嘘ですよと言ってるようなもんだ)
 圭一は、いよいよ自分はだだっこのお守りをしているんだと完全に認識した。
 暇潰しのために爆弾をしかけ、わざわざ自分から正体を明かすような奴で、嘘もロクにつけない。
 よくこんな程度でここまで大見得切れたものだと、半分関心し、一方で罵倒をした。

 その後も圭一は犯人と会話を続けていく。
 もうペースは圭一のものだ。時間を稼ぐくらい、わけのない事だった。

 そして、圭一が赤坂にメッセージを送ってから、三十分が過ぎようとしていた。
 圭一の我慢の限界のラインまであと少しというところで、ついにポケベルが鳴った。
 内容は、『カイタイカンリョウ』。

 圭一はニィっと笑い、一言、言った。


「チェックメイト」


     *      *


 平成二年、六月十六日。
 警視庁に爆弾がセットされた。

 爆弾は東エントランスホール、西エントランスホール、中央エントランスホールにセットされていたようで、うち、東、西の二つが爆破。
 爆発により、警視庁の東、西エントランスホールに居た者はほぼ死亡。
 死者は四十八名、負傷者は百二十五名にものぼった。
 だが、中央エントランスホールは爆発物処理班により迅速に爆弾は解体され、ここのみ爆発を免れた。
 尚、仮に中央エントランスホールが爆破されていた場合、建物が崩れ、中に居たほぼ全員が死亡していたと推測される。
 最悪の事態だけは免れることができたが、被害は多大なものとなってしまった。

 また、犯人は警視庁近くの道路に止められていた不審な車の中に潜伏。
 車内にあった証拠品の数々から、現行犯でその場で逮捕した。
 犯人は警視庁の警視庁・小田勝也(五十四歳)。
 爆弾は裏の取引で仕入れたもののようで、今回の事件で警視庁内での治安が乱れている事が発覚。

 翌日にはマスコミにも大きく取り上げられ、恥を曝す羽目になってしまうのだった。

 また、同時に小田氏からの証言で取引先の捜索が開始され、不法な爆発物の取引をした事で犯人らの幹部五名を逮捕。
 警視庁一の恥を曝したと共に、一つの暴力団を潰すきっかけにもなるのだった……。

 

「……よし、報告書はこんなもんかな」
 事件の翌日。朝刊を見ながら、日本のマスメディアの地獄耳に恐れ入りながらも報告書を書き終えた赤坂は、一服しようと席を立った。
 すると、部屋の扉が開き、前原圭一が姿を見せた。
「おはよーっす……」
「おはよう、圭一君。…………随分とやつれているようだが、どうしたんだい?」
「……いえ、昨日魅音、レナ、沙都子、梨花ちゃんが家に押しかけてきて、俺の就職祝いっていう肩書きのもと、店から店を練り歩かされましてね……。朝まで飲んでたんですよ……」
「ははは、あの事件の後じゃキツかっただろう」
「もう頭痛くって……」

 魅音、レナ、沙都子、梨花。
 この四人と圭一による部活メンバーの恐ろしさと強さを、赤坂はよく知っていた。
 酔った勢いで何をしでかしてもおかしくないようなメンバーなので、圭一の体に異常が無い事を祈りつつ、赤坂は疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。

「そういえば圭一君。あの時ポケベルに来たメッセージだけど、どうして中央エントランスホールに爆弾がある事が分かったんだい?」
「…あぁ、あれですか」
 いかにも生気の無い声で圭一はしゃべり始める。
「えっとですね……まず、西のエントランスホールが爆破されましたよね? 次は、東も爆破された」
「……まさか、このまま行けば中央も爆破されるだろう……ってだけで……?」
「それもありますけど違います……。う〜んと、確か犯人が『そこに居る奴らは皆死ぬ』とか言ったんですよ。それが決めてとなりました」
「どうしてだい?」
「いくら警視長とはいえ、警視庁の隅々にまで爆弾をセットするなんて無理に決まってます…。それなのに一人も残さずに皆死ぬなんてどうして言えるのかって思いまして。で、東と西のエントランスホールが爆破されたのを思い出して、そこから推理したんです」
「一体どんな?」
「建物の中に居る人間を皆殺しにするには、建物を潰してぺしゃんこにするのが一番手っ取り早いんですよ。東と西、つまり左右の柱を失った警視庁は、中央エントランスと爆破を免れた廊下、部屋に支えられてるに過ぎませんでしたからね。奥の方は爆弾をセットしなくても、手前側……つまり、各エントランスホールを潰せば、バランスを崩して建物は崩壊、奴の言う通り皆殺しになるなぁと思ったんです」
「……なるほどねぇ……。…うん、さすが私が見込んだだけはある。」
「そういえば日津谷さんはどこに……?」
 昨日圭一が見た捜査一課のはずだが、日津谷と、数人が居なかった。
「日津谷はまだ厄介ごとに巻き込まれてるみたいだね。なんせ私の部下だから」
「……何となく分かる気がします……」
 信頼も人望も厚い赤坂だが、一人二人くらいは上の方にねたんだりする奴もいるのだろう。
 そういう奴の愚痴は、全て日津谷さんに回っているようだ。
「今度俺が説き伏せてきましょうか……」
 圭一は相変わらず元気なさげに答える。
「はは、それは大いに助かるよ」
 赤坂も元気を取り戻してもらおうと明るく接するが、圭一もやはり眠気と疲れは我慢できないようだった。
「それより赤坂さん。ソファーを貸していただける方がありがたいんですけど……」
「…構わないよ。ゆっくり疲れをとってくれ」
「ありがとうございま……」

 お礼の言葉を言い終わるか言い終わらないか、とても微妙なところで圭一はフラッと倒れ、ソファーにうつぶせに寝そべって寝息を立て始めた。
 よほど疲れていたのだろうと赤坂は解釈し、「どうせ今は使っていないし」と、自分の背広を圭一にかけてやった。

「前原さん、お疲れのようですね」
「ああ。ちょっと、新米刑事が扱う一番初めの事件にしてはハードだったからね」
「でも、それをこなしてしまうところはさすがエリート刑事ってところですけどね……」
「まぁ、今はゆっくり寝かせてあげ――――」

「おじゃましまーーーーーっす!!!!」

 突然、扉が勢い良く開かれ、妙にハイな声が聞こえてくる。……と同時に圭一が飛び起きた。
 何事かと赤坂は扉の方を向く。
 ……そこには……。
「圭ちゃ〜ん、こんなところで何してんのぉ〜。さぁっ!! 次行くよっ! 次っ!!!」
 魅音が居た。
「や……やめろ魅音……!! うわっ、酒くせ!!!!」
「レナも沙都子も梨花ちゃんもみ〜〜〜〜んな外で待ってるんだよぅ〜?」
「お……お前らあれからまた飲んだな!? 肝臓ぶっ壊れてもしらねーぞ!!」
「いーのいーの!! さぁ〜〜〜〜、飲むぞ〜〜〜〜〜!!!!」
「うぎゃああああああああああああああああ!!!!!」

「………………」

 かくして圭一は魅音に拉致られていった。
 赤坂をはじめ、この部屋に居た人物にはなすすべもなく、あっさりと圭一は地獄の片道切符を買わされることになってしまったのだ。
 赤坂は圭一の肝臓の心配をしつつ、梨花と沙都子はまだ未成年だということに気付くが、まぁいいかとスルーした。
 ……というより、赤坂は関わりたくなかった。
 あの交渉人、前原圭一を育てた部活メンバーに。
 関わったら間違いなく圭一の二の舞になると思ったのだ。
 ……結局圭一はその日欠席という扱いとなった。

 さらに翌日、圭一はさらに疲労困憊の顔で捜査一課にやってきた。
 そのやつれ顔を見るに、数々の店で飲んでは移動、飲んでは移動を繰り返したと見える。
 ……まぁ、それはまた別の話であるのだが。

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