「ここか?」
「はい。…ここに赤坂さんが居ます」
 赤坂が逮捕されて、一時間が経過した。
 …赤坂を中心としていた捜査一課の面々は、いよいよ捜査の準備が完了したところだ。
 圭一はすでに動いている。第一発見者に改めて聞きこみに行ったのだ。
 圭一は口先だけの男ではない。それは、爆弾事件で証明済みだ。
 だから、必ず何かのヒントを掴んでくるはず。
 日津谷はそう信じ、自分がすべき事に専念することにする。
 警部保である日津谷が動かせる人数などたかが知れている。 協力してくれるのは同じ課の人間だけだと考えて間違いなかった。
 だからこそ、日津谷自ら動く必要がある。 ……さらに言えば、この事件、必ず赤坂が無実だと証明しなければという強い意識があった。
 たとえ矛先が向けられたのが自分でなきとも、赤坂には全力で救い出すに値する人物だ。
 日津谷が行動を起こすのに、それ以上の理由は必要なかった。

 コン、コン。

 日津谷が放ったノックは、ドアの向こう側に吸い込まれていった。
「どうぞ」
 それに応えた声は、赤坂のものではない。……自分は今、殺人容疑で逮捕されている赤坂と面会するのだと改めて自覚し、日津谷は気合いを入れ直し、ドアを開けた。

「失礼します」
 小さくそう言い、中に入る。…部屋には、やつれた顔の赤坂が座っていた。
 …ここで、日津谷は不審に思う。あの赤坂がこれしきの事で、ここまでやつれてしまうのか……と。
 赤坂に、何かがあったのだ。徹甲弾と呼ばれたほどの男をここまでやつれさせるほどの、何かが。
 
 赤坂は白。…そう信じている者ならではの思考であるわけだが。 部屋の中には、赤坂以外にも当然人が居る。その者に、日津谷は尋ねる。
「話は聞いていると思います。これから、赤坂氏に尋問を行います」
 尋問、という言葉を使うのは、日津谷にはかなりの抵抗があった。だが、赤坂の容疑が真実か否かを正確に判断する必要があるため、あえてこの言葉を使ったのだ。
「どうぞ」
 返ってきた言葉を聞いて、日津谷は話はちゃんとついている事も同時に確認した。
「…では、赤坂さん。短刀直入に聞きます。あなたは本当に殺人を犯したんですか?」
「…私がやった」
「本当ですか?」
「本当だ」
「本当ですか」
「本当だと言っているだろう!!」
「………………」
 赤坂は取り乱し、日津谷を怒鳴りちらした。
 部屋の皆は驚いていたが、日津谷はまったく応じず、黙って赤坂を見つめていた。
「分かりました。では、これで失礼します」 日津谷のこの行動に、再び部屋の中は驚きの表情で満たされた。 皆、てっきり長時間の尋問になると思っていたからだ。
 赤坂も拍子抜けしたような顔をしながら、部屋から出ていく日津谷を見つめていた。
 最後に部屋の中を見渡し、日津谷はドアを閉めて出ていった。

「…圭一君の言う通りだったな…」

 日津谷は小さく呟いた。
 …そう。日津谷は、事前に圭一にあるレクチャーを受けていた。 公証人、前原圭一。尋問も、彼の得意分野だ。日津谷は圭一に言われた通りの言動をしたに過ぎなかった。
「…面倒な事になったな…」
 ボソリと言いながら、日津谷は圭一と合流するために走っていった。

 



 

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